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サブカルチャー 2022.09.02(金)

ガーシーはなぜ嫌われるのか:ロマン優光連載220

 

ロマン優光のさよなら、くまさん

連載第220回 ガーシーはなぜ嫌われるのか

 編集氏はことあるごとに私にガーシーこと東谷義和氏について書かせようとするのだけど、彼については興味が全くわかないので本当に苦痛だ。なんでまた、あんなにガーシーのことを書かせたがるのだろう。
 なんだろう、好きとか嫌いとかではなく興味がわいてこない。彼の暴露の対象となる芸能人に興味がないというのもあるが、それだけではないだろう。
 例えば、印象深い本が多かった1980年代の芸能界の暴露本について考えてみると、あくまで芸能界内部にいた人間による、懺悔、自慢、告白、怒りに基づいた批判、告発、単なる悪口や噂話といったものであって、芸能界の内部の人間ということが語られていることに対する信用の担保となっていた。
 ダン池田『ダン池田 芸能界本日モ反省ノ色ナシ』(はまの出版)は本人なりの芸能界の現状に対する怒りや不満が根底にあったし、データハウスから出版された(そう、データハウスからだから間違ってはいけない。間違ってはいけないのだ。)北公次『 光GENJIへ―元フォーリーブス北公次の禁断の半生記 』はジャニー喜多川氏に対する怒りがあった。それを出版するにあたっては金銭的なものもそこにはあったのだろうけど、根底には本人の強い思いがそこにはある。
 奇妙すぎるラブレター(妻の気を引くために自己の浮気の告白を出版するというのは、その行為自体の是非以前に奇妙すぎる)としか言いようがない長門裕之『洋子へ』(データハウス)もそうなのだが、当時の有名暴露本というのは語り手の自意識が過剰に漏れだしていた。
「自分は芸能人である」「芸能界の人間である」という妄執や、 「私を見てほしい」「私をわかってほしい」という想いが充満していて、内容のセンセーショナルさと共に、その自意識の強烈さが印象的だった。

  そうでない本も当時だって当然あって、稲川淳二氏の元マネージャーによる、田村ガン『芸能界エンマ帳―あるマネージャーの大暴露』(データハウス)がすぐに頭に浮かぶ。当時リアルタイムで読んだのだが、「お前誰だよ?」という語り手が「だから、なんなんだよ?」という感じの自慢をしてくる感じで、極端なノリの軽さと相まってヒドすぎて逆に印象深い。
 芸能界に出入りしてアテンダントをやってた人間が、ギャンブルで金に詰まってしまい、詐欺まがいの行為に手をそめてしまい、それをYouTuberに告発されたりする流れの中で、自分が過去に見聞きした芸能人の言動を切り売りすることでマネタイズに成功したのが東出氏だと考えているが、かっての暴露本の著者が当事者として我が身を切り売りするような、語られる内容と語り手が不可分だったのに比べ、基本的に見聞のみで当事者ではない彼の暴露は別に彼が語り手でなくても構わないようなものではないだろうか。

 また、彼が語り手として信用できるのかも疑問だ。示談されたとはいえ詐欺まがいの行為に手を染めていた人間である。言うほうは楽だが、言われた側が反証していくのは大変な時間と労力がかかるわけで、何とでも言えるといえばそうなのだ。
 編集氏から「なぜ、ゴシップを提供しているガーシーが嫌われるのかという話を」と言われたのだが、直接ガーシー嫌いの人に聞いてみたら「ゲスだから」と簡単に答えはかえってきそうだし、普通に納得するだろう。逆に何故支持されているのかの方が問われるべきなのではないだろうか。

 新書『嘘みたいな本当の話はだいたい嘘』でも少し触れたが、 自分が嫌いな芸能人の悪い話をしてくれることで「やっぱり、あいつは悪人だ!」と嬉しくなるという支持のされ方もあるとは思うが、それが主流ではないと思う。
 別に語り手は彼でなくてもかまわないのではないかというようなことを書いたが、もっというならば語られている相手も誰だってかまわないのではないか。よく相手のことは知らないけど、芸能界でチヤホヤされているようなやつが本当はゲスだという話を聞くと、そいつが自分より下の存在になった気分になって楽しいとか、そのことで相手をバカにできるのが楽しいみたいな需要があるのではないかと思っている。
 さらに言うなら、その話が嘘でも、そういう相手を蔑むことができるなら別にかまわないのではないのだろうか。彼の話が嘘であれ、本当であれ、芸能人を蔑むための材料になってくれれば何だっていいのではないか。そういうゲスさを別に恥ずかしいとは思わず、ゲスなのを嫌がる他人に「お前も本当はそんなのなくせに!」と思える人たちというか。
 彼が参議院議員選挙で当選したのも、何かを期待してというより、世間が忌み嫌うゲスな存在である彼を当選させることで世間に一発食らわせてやったみたいな痛快な気分を味わいたかった層がいたのではないかと思う。
 ガーシーを巡る現象に関しては、本人よりも、彼を支持する人たちの心情に主体があるように感じる。彼自体に興味がある人も、メディアで取り上げられる印象よりは実際は少ないのではないかという気もしている。

(隔週金曜連載)

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