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サブカルチャー 2022.03.18(金)

人工地震:ロマン優光連載208

 

ロマン優光のさよなら、くまさん

連載第208回 人工地震

 先日の地震の日のことだ。
 あの晩、自分の住んでる地域はおもいきり停電区域に入っていてPCは使えないし、簡単に充電もできない状況で何があるかわからないので携帯でネットを見ることも控えていた。
 2、3時間ほどで停電から回復したのでTwitterを見てみたところ、なにやら見知らぬアカウントからDMが届いている。
 2年くらい前に送られてきた「(この連載の内容を)弁護士に相談して訴えています。連絡ください」という内容のDMをはじめ、知らないアカウントからのDMはろくでないものが混じってる場合が多い。当然ながら弁護士からの連絡はその後も一切ない。送り主が他の人とトラブルを起こしてTwitter上で告発されていたのは見かけたが。まあ、あまり変な内容のものは読みたくない(めちゃくちゃな内容の文章を読んでしまうと、自分の思考能力がダダ下がりしたような気分になる)のである。
 そういった過去の例もあるので、おそるおそる内容を確認してみたのだが、「ママ活に興味がある人、連絡ください」という、いたって穏便なスパムだったので、ひと安心。あんな夜にも人知れず裏の経済活動は行われているのである。
 容姿の優れた女性と性行為をした上に報酬まで受け取れるなんて、そんな都合のいい話を信じる人はいなそうだが、信じる人がいて「ビジネス」が成立するから送り付けているのだろう。人は自分が信じたいものが都合よく提示されたら、ついつい信じてしまいがちな生き物だ。これに騙される人は、欲につけこまれているだけでなく、自分は女性がお金を払って性交渉がしたくなるくらい魅力的な人間、特別な人間だと、どこかで思っているのではないかという気もする。

 次の日、前日の地震は人工地震だという発言をがTwitter上で流れてきてげんなりした。別にそういう人たちは何かの科学的根拠をはっきり持っているわけではないし、特に何かを調べたわけですらない。そうであって欲しい、そうあるべきだから、そう言っているだけだ。だから、そうでないものに納得することはないし、何を指摘したところで仕方がない。彼にとってはそれが「真実」だから。
 そのことに対して何の知識も持たない人間だから、そういう事態がおこるということでもない。東北のまつろわぬ民の歴史を描いた古文書とされた『東日流外三郡誌』。それが偽書であるという指摘が証拠を踏まえて何度もなされているのに、あれは本物であると主張し続けた研究者がいたのは、そこに彼の歴史仮説を証明するものがあると信じたからだ。今までの話とは少し違う話ではあるが、日本考古学界の最大のスキャンダル・「神の手」事件にしても、捏造された石器を名だたる考古学者たちが見破ることができず、一人の人間が連続して大発見をする不自然さ(及び、発見時のシチュエーションの不自然さ)にも気づかなかったのは、彼らの仮説を証明するために必要なものがそこにあったからだ。自分が必要としている「物語」を提示された場合、人は簡単に信じてしまう。
 偽史・偽書というものの中には、単にそれによって何らかの利益を得ようとするだけではなく、世の中が自分の考えているような「世界」でないことに不満を抱くがあまり、世界自体を書きかえようと、やむにやまれぬ暗い情熱に突き動かされて創られたようなものがある。それを創った人間は自分が創作しているのにかかわらず、それが真実であるかのような気持ちを心のどこかで抱いているのではないだろうか。そういったものは、出来損ないの「作品」「表現」であり、成り損ないの「宗教」だ。文学にも聖典にもなれなかった『竹内文書』のように。
 自分はそういうタイプの偽史・偽書を創ってしまうような人間に対して興味を持ってきた。偽書自体はどうでもいいというか、ああいうものは奇抜なとこだけかいつまんできて紹介されているから面白そうに思えるだけで、だいたいがつまらないものだ。既存の歴史書や創作物からサンプリングしてきたものを、ありがちな「物語」にそって配置しているだけのものがほとんどだから。それにサンプリングとサンプリングの間の繋ぎの部分に独自のセンスで新しい何かがささやかに付加される。まあ、「真実の歴史」だと信じて読むから読めるが、そうでないなら読んでもツラい、そんなものだ。そんなゴミの山を創ってしまった、むやみやたらな妄執にかられた人間に興味があるという話である。
 しかし、ゴミの山がただのゴミの山として誰にも見向きもされずに朽ち果てていくのであればいいのだが、既に偽物の刻印を打たれ、死んだ輪でしかないはずの過去の偽史・偽書のたぐいが現代に召喚されて現実世界を動かしてしまうことがある。オウム真理教が教義内にサンプリングしていたものの中には『竹内文書』をはじめとした偽書群があった。最初に創った人間の想いとは関係なく召喚され、別の「意味」が与えられ、偽史・偽書は延々と連鎖していく。
 偽史・偽書の中には国家権力と結びついてしまった、あるいはそのために作られたものもある。満州にユダヤ人を受け入れようとしたフグ計画(幻に終わったが)は、現実の軍人が日ユ同祖説という偽史を真に受けたことから始まっている。最悪のケースは『シオンの議定書』だろう。帝政ロシア時代に反ユダヤのプロパガンダのために国の関係者によって創られたという偽書がヨーロッパ中に広がり、ヒトラーに影響を与え、ああいう結果をもたらした。元が嘘でも信じるものがいれば現実は動く。
 今もネット発の偽史・陰謀論が現実を動かしている。Qに動かされた人々による連邦議会議事堂占拠がいい例だ。どんなに辻褄が合わないめちゃくちゃな話でも、自分に都合がよかったり、自分の気持ちを救ってくれるなら、人は信じるし、行動する。ママ活スパムにひっかかる人も、連邦議会議事堂を占拠した人もそこは同じだ。報われたいという気持ち、自分が報われないとおかしいという気持ち、そんな心のすきまにつけこまれている。
 必ずしも人間は生きている間に報われるわけでもないし、救われる機会が生じるわけではない。自分の不幸に合理的な理由があるわけでもないし、誰かの意図通りに全てが動かされているということもない。世の中は非合理的でむちゃくちゃなもので、全てに合理的な理由があるわけではない。まず、全ての情報を握ることなんてできないのだから、目に入る範囲しか世界の形なんかわかるはずがない。だから、世界の「真実」になんて自分がたどり着くわけなんてないし、全ての「真実」を知ったと思う時があるのなら、それは嘘でしかないのだ。

(隔週金曜連載)

図版:Copyright: thorstenschmitt /123RF

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