携帯電話が鳴っているので出たら助監督だった。何の用だろうと寝ぼけまなこで電話に出たら、
「出た、出ました、繋がりました」
　と叫び声。そして、
「いま、どこにいるんですか」
　と叫び声。撮影開始は早朝8時。スタッフ集合は6時。だったのかな、正確には記憶がない。あまりの出来事に記憶が欠落している部分がある。
　私は前夜の撮影場所にカメラ、照明、衣装、大道具などと機材車を置いてタクシーで帰宅していたので、その撮影場所（阿佐ヶ谷）に寄って、すべての機材を車に積み込んでスタジオ（新宿）に向かうことになっていた。
　というのも、前夜の撮影が長引いて機材車を駐車場から出せなかった。夜間、閉まってしまう駐車場に停めてしまったのだ。朝には開くことになっていたので、まあ私が早起きして阿佐ヶ谷まで来て、機材を積み込んで新宿に向かえばいいだけだと思っていた。
　たぶん7時に駐車場が開くことになっていたんだと思う。
　5時頃起きれば余裕で間に合う、と思って夜中の2時ごろに寝たんだろう。3時間ぐらいしか眠れないが、なんとかなると思っていたし、目覚まし時計もかけたはずだし枕元に携帯電話も置いて寝た。
　電話で目が覚めたら9時半頃だったように思う。
　もうそろそろ来る、もう来る、と出演者もスタッフも待っていた。大きな道路まで出て待っていたそうだ。
　何十回と何人もが電話をした。
　それでも私は出なかったのだ。電話が鳴っても、目覚まし時計が鳴っても、私は起きなかったのだ。
　私はぽかぽかと温かい、初冬の日差しに照らされて、ベッドの上にいた。
　すべてを理解した瞬間、気が遠くなった。
　ドラマにあるみたいに、すべての音が聞こえなくなった。
　この瞬間の記憶がある。
　音が聞こえ始めた。助監督の声がフェードインしてきた。
「……鈴木一功さんが帰るって言ってます」
　跳び起きた。
　すぐに家を出た。
　服だけ着て。お金だけ持って。15秒ぐらいで出たと思う。
　世田谷通りに出てタクシーに乗った。阿佐ヶ谷まで急いでください。そうお願いして、現場に電話をかけた。何人かの出演者が怒って帰り始めていた。次の仕事がある人もいたのだ。なんとかお願いして近くの喫茶店に連れて行って待っててもらってくれ。そしてスタッフをひとり、タクシーで阿佐ヶ谷に向かってもらった。機材の積み込みを少しでも早くするためだった。
　環状7号が混み始めた。
　その日のスタジオ及び機材レンタル代、数十万円。
気持ちよくやってもらうはずの出演者は帰り始めている。それを必死でスタッフが止めていた。
　タクシーの時計は10時をすぎていたと思う。
タクシーはようやく高円寺に近づいていた。
　気が狂いそうだった。
　皆さん。
　寝坊は恐ろしいです。
（この項、つづく）

『怪奇！幽霊スナック殴り込み』（2006年・男の墓場プロダクション）
出演/タナダユキ、島口哲朗（剣伎衆かむゐ）、リリー・フランキー、鈴木一功、横山剣（クレイジーケンバンド）、大槻ケンヂ、漁港、古澤裕介、DJオショウ、田口敬、内藤研、石熊勝巳、モンロー、井上則人、せきまさ、希和、奥平イラ、田原章雄、DJタキシット、ナイス橋本、高谷洋平、山田ゴメス、ごっしー、篠本634、高木JET晋一郎、有村昆、岩岡としえ、黒ゴマ♂、山田広野、大森昌宏、伴ジャクソン、藤崎望、福田高士、桐原史子、佐々木洋、上本輝雄（墓場ニューフェイス）、能地祐子、浅川満寛、手塚能理子、山田五郎、安斎肇、川勝正幸、みうらじゅん
監督・脚本/杉作J太郎
音楽/柳家小春
効果音/ファンク入道（ダースレイダー）
主題歌/クレイジーケンバンド『まっぴらロック』

＜隔週金曜日掲載＞

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杉作J太狼XE監督作品　映画「チョコレートデリンジャー」twitterアカウント
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