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サブカルチャー 2021.10.15(金)

松永天馬「私はサブカルが嫌いだ」を読んでみた:ロマン優光連載197

 

ロマン優光のさよなら、くまさん

連載第197回 松永天馬「私はサブカルが嫌いだ」を読んでみた

 朝起きたら、バンドの相方の掟さんが「皆さんが捨てたサブカルチャーをこっそり拾って再生産する生き方が許されている、それが俺。」とTwitterでつぶやいていて、「掟さん、ゴミ捨て場で拾ってきた昔のサブカル本でも古本屋の査定にでも出してるのかな」と呑気に思っていたら、アーバンギャルドの松永天馬さんが書いた『私はサブカルが嫌いだ』というnoteに対する反応であることが判明。さっそく読んでみることに。
 そうこうしてると編集氏から連絡があり、「群馬県知事が魅力のある県の下位だったことを訴えるとか言い出したり、訴訟が流行ってますよね。何か自分がTwitterでフォローしてた人も○○に訴えられて金払うことになったみたいで。群馬県知事とか○○について…」嫌だよ! 山本一太は絶対目立ちたいだけで意味なんてないし、○○のこと書いて訴えられたら嫌だし! そういうわけで松永氏のnoteの感想を書くことになりました。

 彼と自分は10個年が違うのですが、そういう年令差から生じる認識の差というもの以上に「サブカル」という言葉に対する考えや想いの違いというものを感じる文章でした。「サブカル」という言葉が差し示す範囲は人によって違うわけで、そこを巡って議論しても意味がないことです。それはそれとして、事実関係の認識で変なとこがあったりするのが気になるところ。「そしてタイミング良くムーブメントになりつつあったアイドルとセットにしてコンテンツ化すれば、大衆が手に取りやすいことをマーケターたちが知ってしまったのだ。」「ノイズもポエトリーリーディングも『kawaii』女の子のタグを付ければ容易に食えるものになることを、代理店や雑誌は知ってしまった。」という部分とか、すごく気になりますよね。そういう事実はあったのでしょうか?
 現実にあったのは、サブカル系と世間的に見なされているライターの何人かが10年代のアイドルブームでアイドルにはまったり、それについて言及したりすることが多くなったこと。かつて「サブカル」に興味があった人たちがアイドルをその興味の対象にしだしたこと。そういう人たちを対象に、今までアイドル楽曲として採用されてなかったタイプの楽曲を採用することが増えたり、「サブカル」な文化に浸ってきたタイプの人が自らアイドル運営になり自分の趣味性を打ち出したアイドルをはじめることが多くなったこと。自分にとってよくわからないアイドルを「サブカル」の一言で雑に表現する人が多いこと。アイドルたちがいう「サブカル」が、90年代から00年代にかけて「サブカル」だったものとは違ったものを指すことが多いこと。そんなもんですよね。
 アイドルと「サブカル」を結びつけたのは、マーケッターでも代理店でも雑誌でもないんですよ。「サブカル」系のライター(その多くは90年代に登場してきた時点でアイドルも興味の対象に最初からしていた)がアイドルに言及する機会が増えたり、「サブカル」好きがアイドルに興味を示して言及をしたり、運営になったりしだしただけで、別にそういう風に業界がしかけたということはないと思います。
 どんなジャンルでも拡大していく過程で、主流ではないオルタナティブな表現が生まれたり、今までのそのジャンルの楽しみ方ではない楽しみ方をする人があらわれます。漫画、アニメ、プロレス、ゲーム自体は大衆文化ですが、時代と共に表現の領域が広がることでジャンル内サブカルチャーといえるようなものが生まれたり、本来の楽しみ方とは違う「サブカル」的なアプローチで楽しむ人が生まれていったことで、「サブカル」として呼ばれる部分が成立していったわけです。別に漫画、アニメ、プロレス、ゲームが「サブカル」なんではなくて、ジャンルの中に「サブカル」と言えるような部分も存在しているというだけで、アイドルもそういう風になったというだけの話ですよね。まあ、世の中には雑な人がいるわけで、ジャンル内の一部が「サブカル」として扱われただけのことをジャンル全体が「サブカル」だと言ってしまう人がいて、それが混乱に拍車をかけるわけですが。
 なんというか、松永氏は自分の愛してきた「サブカル」の中にアイドルというものが入ってきたということが嫌なんだなというのはよくわかりますが、事実でないことを持ち出すのは変だと思います。
 サブカルチャーの語源をたどり本来の意味で考えれば、暴走族文化もラオタ文化もサブカルチャーなわけです。でも、それは「サブカル」だと思う人は普通はいませんよね。このように「サブカル」というのはサブカルチャーと=ではないんですが、松永氏にとっては「サブカル」=サブカルチャーになっているわけです。松永氏が好きなのは、カウンターカルチャーの系譜から生まれてきたサブカルチャーという話であり、日本ではそういったものが「サブカル」として扱われてくることが多かったわけですが、今はそうではないものが「サブカル」として扱われるようになることが増えています。自分が「サブカル」として愛してきた文化がその中でメインではなくなったことに対して苛立ったり、今のそんな「サブカル」と過去の「サブカル」や自分たちとを一緒にしてくれるなと思ったり、自分の愛して打ち込んできた「サブカル」がひどく雑に扱われていると感じてしまったり、それが本当に嫌なんでしょうね。気持ちはわかります。ただ、それの主語が大きくて、微妙に雑だという。
 noteの文中で、氏の考えてきた「サブカル」のあり方が変わってきた原因の一つとしてネットの普及があると考察されていますが、どんなにネットが発達して今までよりも簡単にマイナーな情報にアクセスできるようになっても、そこにいかなければ(もしくはそこから通販しなければ)手にはいらない音源も本も、ライブハウスに直接いかなければ体感することができない表現も、依然として存在しています。松永氏にとっては、もはや「サブカル」ではなくアンダーグラウンドということなのかもしれませんが、そういうあり方自体はなくなったりはしないと思うんですよ。あと、本当に大事なことはカタログ的に知識を溜め込んでいくことではなくて、そこから何を考えていくか、どれだけ自分の意識をそこに潜らせていくかであって、サブカルエリートの知識掘り苦労自慢みたいなのが無効になったところで、どうでもいい気がします。苦労して知識を得たとかどうでもいい。インターネットでアーカイブ化されてない情報も沢山あるし、インターネットでアーカイブ化されているものでも読みきれない、まだまだたどり着けない情報も沢山ある。やり方しだいなんですよ。個人として文化に向かいあって、一人でやってくこと、それが全てではないでしょうか。
 色々書いてきましたけど、あれは松永氏というポップスター/表現者の脳内を描いた、ある種の寓話だと思うのですよね。だから、こういう風に論理で読みとくのは間違っているような気もするんですよ。そういえば松永氏といえば、ライブ会場で自殺をはかった地下アイドルを過剰に意味付けして持ち上げていたこともありますが、あれなどは現実のその子をオタクとして見知っている(自分が推していたアイドルと事務所が一緒で対バンでよく見ていたし、色々見聞きする機会があった)自分にとってみれば現実に即していない変な感じだったのですが、その断片情報からインスパイアされた松永氏の表現や思想自体は面白かったりするわけで。あの原稿もそういうたぐいのもんだと思います。私はアーバンギャルドというバンドの中で真に知的だったり論理的だったりするのは浜崎容子さんだと思っておりまして、やっぱり松永氏は知の人というより感性の人なんですよね。その場の想い優先で論としては色々と雑だったりするのですが、そこがまた氏の魅力だったり、アイドル性に繋がるとこでもあったりするわけで、なんというか氏の書く文章は論考というより詩なんですよ。だから、あれはあれで氏の詩として受けとるなら、良い作品なのではないですかね。

『中央公論』の赤田祐一インタビュー

「サブカル」といえば、『中央公論』にのっていた『クイック・ジャパン』の初代編集長である赤田祐一さんのインタビューを読んだのですが、Twitterでは文脈から切り取られがちなので好きではないという話や紙媒体への思い入れなど興味深い部分が色々あるのですが、自分が特に気になったのは『クイック・ジャパン』に関する部分。訓練されていない人間の身体の痙攣的な動きに舞踏としての可能性を見出だすように、氏が『クイック・ジャパン』でやってきたことの中には、訓練されていない人間の文章による痙攣めいた表現の実験の場としての役割があったのではないか。初期のあの雑誌には「いじめ紀行」以外にもひどい記事(印象的なのは複数の地下アイドルのファンについての記事。オタクっぽいファンには自慰行為について聞くが、不良系のファンには聞かないという、オタクをなめきったやつ。金井覚氏のものではありません)が多く、そういった実験の場であったことが、それらの原因に繋がっているのではないか。そんな風な感想を持ちました。ニュージャーナリズムの影響下で一般的にルポの対象とされないものをルポの対象にし、そこに既存の書き手ではない人、訓練されてない素人を書き手として選ぶ(そういったものをテーマに書きたがる人に、野心的な素人が多かったのもあると思います)ことで、新しい可能性を見たかったのでしょう。確かに他にはないものが掲載されていたとは思います。ただ、書き手としての最低限の訓練ができてない人間による文章には、されてしかるべき手順や配慮が存在しないものが多く、それがひどさに繋がっていったのではないかと思う。それによって、訓練された書き手によって手順・配慮・ある種の逃げ道(筆者・読者双方にとっての)などが想定されてテクニックを使って書かれた鬼畜系・悪趣味系サブカルの原稿よりも、ひどく露悪的で不快なものに仕上がることが多かったのではないかと。そういった部分については編集サイドが考えることではあるのだけれど、赤田氏はそういう実験から生まれてくる何か新しい可能性に夢中で、弊害的なものには興味なかったような気がします。
 赤田氏は、青山正明氏の文章の上手さは好きだったが鬼畜・悪趣味系サブカルには興味がなかった、高学歴の人の痴的遊戯だと思っていたという内容をインタビュー内で語っていますが、そういう記事として高度な技術が使われているより、生々しいものが読みたかったということなのでしょう。
 記事の趣旨が違うとはいえ、小山田圭吾氏の件について触れているのが、SNSを見なくなった理由としてあげている箇所ぐらいなのに驚いた人も多かったと思います。なんというか、赤田氏は人間の起こすことには興味があっても、人間自体には興味がなく、自分の読みたいものをつくる以外には何も考えていない、その結果として何が起こっても、それは理解できない相手の問題としてしか捉えていないのかもしれません。わかる奴だけ読めばいいという作り手としての考えはわかります。それは正しいと思います。ただ、そういう記事作りをした結果、ある意味巻き込まれてしまった小山田氏に対して何の配慮も見せないことに対する疑問は浮かびます。赤田氏は編集者であり、自分自身が発信しているのではなく、他人に自分が求めるものを書いてもらう・書かせる立場です。悪く言うなら、自分が読みたいものを読むという欲望を満足させるために他人を利用している立場なわけです。そうやって関わった人たちの現状に対して何か感じたりしないのかなとは思いますよね。表に出ることは好きではなく黒子に徹してきたと語っていますが、舞台上で問題が起こった時に黒子だからと出てこないのは違うというか、黒子も舞台を作っている側なんだから、何かあれば責任は問われるのが当然です。また、編集者が書き手やインタビュイーを守らないのは職業人としてどうなのでしょう。ただ、赤田氏自体は何を言われても関係ないんでしょうし、何も変えないと思います。社会にも人間自体にも興味がなく、人間が産み出した何か名付けようのないものを見てみたいという自分の欲望に忠実な個人主義者なんだと思います。社会性に基づいた反応を要求する声とは平行線をたどるのではないでしょうか。

 松永氏も赤田氏もネットに対する不信・不満めいたものを漏らしています。誰にでも入り口は開かれているが、入り口を見つけるのに手間がかかる半分オープン・半分クローズドな場である紙媒体によって支えられていた、かっての「サブカル」のあり方。松永氏はそれが郷愁の中にしか存在しなくなったことに対するアンビバレントな気持ちから「わたしはサブカルが嫌いだ」と言い、赤田氏はそれでも紙の雑誌というあり方にこだわり続ける。紙の時代の「サブカル」に思い入れが強い二人なんだなあと思いました。
 個人的には「サブカル」という言葉がどんなに形骸化しようと、どんな時代でも世の真ん中にある文化からどうしても自然に外れてしまう人間はいるわけで、そういう人間のための文化は形を変え続けながらもなくならないと思うんですよ。私はそれが存続していくのなら、別に「サブカル」とかいう名前で呼ばれなくてもいいと思っています。本来、個人が一人で対象と向かい合ってやっていくでしかないものですしね。

(隔週金曜連載)

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【ロマン優光:プロフィール】
ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。現在は、里咲りさに夢中とのこと。twitter:@punkuboizz

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