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サブカルチャー 2021.03.26(金)

令和三年・呉座の乱:ロマン優光連載183

 

ロマン優光のさよなら、くまさん

連載第183回 令和三年・呉座の乱

 なんとなくそうなるような気がしていたのだが、編集氏からの依頼は「日本中世史研究者・呉座勇一氏が実名Twitter鍵アカウントで行っていた英文学者・北村紗衣氏に対する誹謗中傷が北村氏本人に知れることになり、内容もさることながら、その執拗さに非難が集まり、鍵をあけて謝罪。その過程で様々なことが発覚。ドイツ思想史研究者・北守(藤崎剛人)氏にたいする執拗な中傷。Twitter上の有名アンチフェミアカウントと交流を持ち、一緒になってそういった発言に勤しんでいたこと。本人が仕事上でしていた発言と相反するような歴史修正主義的な発言をふぁぼっていたことが多数発見されたこと。そういうことが掘り出されていった結果、批判が集まり、呉座氏がNHK大河ドラマの時代考証担当を辞退することになった事件」についてであった。
 呉座勇一氏本人、及びその言動の問題、さらにそこから波及した諸問題については既に色々な指摘や検証がされているので、特に付け加えることはないような気がするので、個人的な感想を述べていこうと思う。
 実名でやっているアカウント、鍵をかけていようが数千人フォロワーがいるようなアカウントでやっていればいつか内容を漏らされるであろうということに気づかない愚かしさには驚いた人も多いと思う。会ったこともなければ、ネット上で深く交流したこともないようなフォロワーが大勢いるのに、その人たちが何故ツイート内容を漏らさないと確信できるのか。自分は他人に対する悪意を撒き散らしているのに、他人の自分に対する善意を無条件に信じていることは不思議である。
 呉座氏は著名な日本中世史の研究者であるが、歴史修正主義批判のようなことをインタビューや対談で行い、売りの一つになっていたような人物である。リベラルよりな傾向の人物だというイメージを持っていた人も多い。その人物がプライベートだと本人が理解しているような場では、歴史修正主義やレイシズムのようなものを支持するようなことをやっていたことが衝撃だった。本人の中でそれはどういうバランスで成り立っていたのだろう? 単に仕事のために嘘をついていただけなのか?「それはそれ、これはこれ」と、Twitterで交流している人たちと盛り上がるネタとして共有していたのか? 例えようのない感情が沸き上がってしまう。
 北村氏に対する誹謗中傷も一点だけ見れば「呉座氏が嫌なやつ」というだけのことかもしれないが、それを執拗に繰り返している様、フェミニズムに対する揶揄発言、女性に対する蔑視発言(筆者が読んで一番不快になったのは既婚女性研究者に対する前時代的な侮蔑の下りだった)、リベラルに対する反感発言といったものが連なっていくことで、そこに文脈があるのがわかってくる。仲間うちでフェミ・リベラルといったものをバカにするという遊びのために、アイコンとして北村氏を利用しているということだ。北村氏の著作やその論に対する反駁とかでもないだろうし。ようするに、仲間うちからいいねしてもらうために人をバカにしていただけ。北村氏の悪口を言うといいねがもらえるからやっていただけなのだろう。ある意味、北村氏本人に対しては、さして拘りも憎しみもないし、信念があって批判していたわけでも当然ない。単に仲間うちのネタとして使ってるだけだから。それが謝罪をしなければならないようになり、相手を人間だとして認識せざるを得なくなった時に、呉座氏の中にどういう気持ちがわき出てきたのかは興味がある。
 過去に遡って呉座氏本人の発言だけでなく、RTやいいね欄を掘り起こしていく行為に対する批判がある。人間は変わっていくものだから、現在の主張に対して、その人の現在に至るまでの軌跡を無視して「お前、あの時ああ言ってたじゃないか」と過去のものを掘り出してきて現在のその人を攻撃したりするのには筆者も否定的な立場だ。また、過去の検証はしなければならないが、時代性などを考慮せずに単に断罪するのは間違っているし、さらにそれをもって現在のその人を断罪することはどうかと思う。その上、過去のいいねやRTにいたっては、その時にどういう文脈でそれを行ったかなど本人ですらも記憶の外にあって検証不可能な場合もあるものだ。それをあらかじめ設定された答えに向けて一つに紐付けて解釈していくことにも疑問は感じる。ただ、呉座氏の場合はずっと同じことを長年に渡って現在進行形でやっていたケースであり、さらに本人の発言といいね・RTが明確にある傾向で統一感があるわけで、そういう一般論は当てはまらないと思う。ケースバイケースでやっていこうと言っても、それを誰がどう切り分けるのかという問題はあるのだが、呉座氏のケースは「今この瞬間の発言にしか責任はない」ぐらい極端な考え方をしない限りは無理だと思う。
 呉座氏の北村氏に対する発言に同調したり擁護したわけでもない相互フォロワーに対してまでも非難する人もいる(北村氏自身がその人たちを責めないと明言しているのに)が、それはさすがにやりすぎだと思う。関係性によっては、発言を咎めたり、リムったりすることで何らかの被害を受ける可能性もある。呉座氏には日本中世史研究者・亀田俊和氏に対して本人が嫌がっているのに執拗にいじり続けたというハラスメントの実例もあるし、そんな人に対して何か言うのはいやだろう。職場や友人関係の中でおかしいと思うことがあっても、毅然と注意したりとか、離職や絶縁をすぐにできるかというとそうではないことを考えれば、なかなか他人を責められるもんではない。あと、そんなに相互フォロワーのツイートって逐一見ているものなのだろうか? 単にお付き合いでフォローしあってるだけの関係もある。フォローしている人間が多すぎて、いちいちタイムライン見ていない場合もある。そこまでTwitterやってない人だっている。相互フォローといっても互いに発言内容を全部把握しているわけでないことも多い。そういうことを考えても、「もし相互フォロワーが社会的や道義的に問題がある発言をしていることに気づいた場合、できれば自分に過度の負担がかからない範囲で注意することが好ましいと思う」ぐらいのことしか言えないと思うのである。

 呉座氏と相互フォローであり、彼のツイートをふぁぼっていた春日太一氏に関してだが、彼に関して考えると、どういう文脈で発言がなされているかをちゃんと把握しているわけでもなく、目に入ったもので気に入った文言が入ったものをふぁぼっていただけのような気がする。その中には政治的に右よりであるものがあり、偏見が強めのものもあるがそれが社会的・道義的に責められるような酷いレベルのようなものともいいきれず、一つの意見といえば一つの意見だ。完全に同意の意味でふぁぼったのか、一つの意見として参考にするために記録の意味でふぁぼったのかもわからない。北守氏に関して個人攻撃をしているツイートも含まれるが、春日氏の北守氏に対する謝罪文での弁明のように、攻撃を正当化するためにもっともらしく語られている問題提起の部分に関するものだろう。町山智浩氏批判の部分は普通にふぁぼったと思われる。なんというか、春日氏は呉座氏のツイートを雑な感じで見ていたのだと思う。精力的に活動範囲を広げようとしている氏が呉座氏のアカウント全体の傾向を把握していたのなら、よほど愚かでない限り後難を怖れてふぁぼったりはしないのでないだろうか。かって、春日氏と町山氏はビジネス上付き合いがあったわけだが、二人の政治的なスタンスには明らかな違いがあった。しかし、春日氏はそこにあえて触れるようなことはなかった。逆にそういった部分は目に入れないようにしていた節がある。呉座氏の場合も、仕事に直接関係ない部分はあまり目に入れないよう触れないようにしていたため、全体的な傾向を文脈として捉えることをしていなかったのではないか? また、手がすべったというような言い訳をしたのは失敗であったと思う。それが嘘であれ、本当であれ、あの状況では他人からは嘘だとしか思われないから絶対にしてはいけない弁明であった。今後も何かあるごとに言及されてしまうだろうし、痛恨のミスだったと思う。また、Twitter上でポリティカル・コレクトネスに乗っ取った他者批判を頻繁に行うことで氏の評価が上がっていった部分があるわけで、今回のことで他者に厳しく身内に甘いのではないかと、そういった部分での信用を失ったのはあるだろう。ただ、うかつであったことは批判することはできても、現状で明らかになっていることで春日氏の今までが嘘だったと断定できないし、呉座氏と同じように批判することもできない。今後の立ち振舞いを長いスパンで観察していくことで、彼の真価は見えてくることだろう。それは今回この件に関わったり巻き込まれたりした他の人々に関しても同じである。
 別の話になるが、個人的にはTwitter上でのふぁぼやRTはツイート単体で行うのは危険だと思っていて、発言主の普段の言動をチェックしないと何かとんでもないことに加担させられてしまう危険があると思っている。単体ではいいことを言っていても、そのアカウントの傾向全体を見てみると別の意味があったりもする。いいことを発信することで影響力をもち、何かろくでもないことを広めようとしている節がある人もいる。また自分が褒められていたり、擁護されていても、ツイートの本題としてはそれをだしにして他者を誹謗中傷することにあったりするものもある。そういうものをふぁぼったりRTしたりすることは、それに加担することになる危険が伴っている。しかし、どんなに気を付けていても完璧にできるわけはないので、本当にTwitterは怖いところだなと思う。
 Twitter上の喧騒に食傷気味で、そういうことにツイートであまり触れたりしたくないんですよね。原稿のメモ的な感じでツイートする場合もあるけど。原稿があるから、嫌でもそういうものをある程度以上の範囲で調べとかなきゃいけないし、勝手に近いところでなんか起こって勝手に情報が入ってきたりするから、なおさら。基本的にはプライベートでは趣味のことしかしたくなく、アイドルと漫画と鎌倉~南北朝時代の歴史とかにだけ触れていたい。それが、ちょうどね『南朝研究の最前線』を読んでる時にこんなことが起こりましてね。何んともいえない気持ちになりました
…。

(隔週金曜連載)

【おすすめ文庫】『南朝研究の最前線 ここまでわかった「建武政権」から後南朝まで』 日本史史料研究会・監修 呉座勇一(朝日文庫/朝日新聞出版)
https://books.rakuten.co.jp/rb/16469245/

★ロマン優光のソロパンクユニット プンクボイのCD「stakefinger」★
https://books.rakuten.co.jp/rb/15176097/

★ロマン優光・既刊新書4作 すべて電子書籍版あります。主要電子書店スタンドで「ロマン優光」で検索を。

『90年代サブカルの呪い』
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紙書籍の在庫があるネット書店はコア新書公式ページから
http://www.coremagazine.co.jp/book/coreshinsho_027.html

『SNSは権力に忠実なバカだらけ』

https://books.rakuten.co.jp/rb/15204083/
主要配信先・書籍通販先などは下のリンクからhttp://www.coremagazine.co.jp/book/coreshinsho_025.html

『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』
http://books.rakuten.co.jp/rb/14537396/
主要配信先・書籍通販先などは下のリンクからhttp://www.coremagazine.co.jp/book/coreshinsho_021.html

『日本人の99.9%はバカ』
https://books.rakuten.co.jp/rb/13104590/
主要配信先・書籍通販先などは下のリンクからhttp://www.coremagazine.co.jp/book/coreshinsho_010.html

★「実話BUNKAタブー」では、『ロマン優光の好かれない力』引き続き連載中! 発売中5月号のテーマは「『映画秘宝』騒動の戦犯は誰だ!?」コンビニや書店・ネット書店で!

★ロマン優光、太郎次郎社エディタスのWebマガジン「Edit-us」でも連載が始まりました。気になる人は「Edit-us」で検索してみてください。

【ロマン優光:プロフィール】
ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。現在は、里咲りさに夢中とのこと。twitter:@punkuboizz

おすすめCD:『蠅の王、ソドムの市、その他全て』/PUNKUBOI(Less Than TV)
楽天ブックス
http://books.rakuten.co.jp/rb/13292302/

連載バックナンバーはこちら
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