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    実話BUNKAタブー2020年12月号

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サブカルチャー 2020.07.17(金)

ザ・スターリンの1stが再発:ロマン優光連載165

 

ロマン優光のさよなら、くまさん

連載第165回 ザ・スターリンの1stが再発

 編集氏から告げられた今回のテーマがザ・スターリン。「担当が○OCのこと書けとか無茶ぶりしてこなくて良かった…。」と安堵したのはいいけど、数え切れないくらい多くの人々が語り続けてきた伝説的な有名パンクバンドについて、私が何か新たに語ることができるのかということを考えてみると、これもまた充分な無茶ぶりなのではないでしょうか……。

 そういうわけで、ザ・スターリン(及び前身バンド)の音源を色々聴きなおしたのだが、メジャー1stアルバム「『STOP JAP』(82)は本当によくできているアルバムだな」と改めて思った。
 まず、何よりわかりやすい。
 私は72年生まれなのでザ・スターリンのライブを直接体験するにはハードルが高かったし、バンドが現役の頃はパンクとか興味がまだなかった。一方で、パンクを聞き出した中3から高1ぐらいだと、実家近くのレンタルCD屋にいけば『STOP JAP』と『虫』のカップリングCDをはじめ、メジャーから出たアルバムは借りれたし、コンピレーション『Stalinism』が発売されていたので『Trash』以外の自主製作音源やコンピレーション参加曲以外は聴けたし、あとはレンタルビデオ屋で『爆裂都市』を借りてきてマッドスターリンの登場シーンで楽曲を聴いたりしてれば、中高生の乏しいお小遣いでも、だいたいの音源は聴けるバンドでもあった。まあ、『Trash』以外は。

 そういうわけで、当時ザ・スターリンの大まかな軌跡を『電動こけし』なら『Fish inn』まで一気に聴いたわけだが、やっぱり最初に聴いたの は『STOP JAP』です。レンタルで借りれたから。
 ほんと、わかりやすくていいアルバムだ。SSTやAlternative Tenacleからリリースされたり、初期のバットホール・サーファーズ周辺にいた変なテキサスのバンドみたいな得体のしれない感じが漂ってくる『Trash』以前の音源に比べれば音楽的には退行してるような気がしないでもない。
 『虫』のように中村ていゆうによる当時のハードコアパンクのドラマーとしては異常にテクニックのあるビートと、分厚くて神経を逆撫でする金属質なタムのギターによって、なんか当時の純粋なハードコアパンクとはまた異質な狂った機械みたいな破壊的で圧倒的な音があるわけでもない。
 しかし、まず曲がいい。意図的にわかりやすい「パンク」的サウンドに寄せて作られたアルバムだ。ただ、みちろうのボーカルがのってしまうと楽曲のそういうところがわかりにくくなってしまうのだけど。ソーセージの目玉や欲情のような曲は曲だけ聴いてれば楽しげでノリノリのパンクロックだ。そういう曲と、以前の得体の知れない部分の名残がある曲(あるいは当時の曲の再録)というか「得体の知れない感じ」をわかりやすく提示している曲、負け犬のようなハードコアパンク的な曲が混在しているのだが、過激すぎたり、ポップ過ぎたりしない範囲でほどよくパンクロックとしてバラエティに富んでいる。『Trash』みたいに気味が悪すぎたり怖すぎたり、『虫』みたいにうるさすぎたり怖すぎたりはしないのだ。音の感じも、ロック的なうるささはちゃんとあるけど、耳辺りのいい感じもあり、日本のメジャーのロックバンド感がちゃんとある。
 遠藤みちろうの歌詞も、ある意味わかりやすい。歌詞の内容がわかりやすいということではない。わかりやすい過激なフレーズがある。わかりやすい知的な言葉がある。わかりやすく詩的なフレーズがある。隠喩の意味はわからなくても、それが隠喩であること自体はわかりやすかったり。
 普通に過激で暴力的な言葉に反応する子も、洋楽のパンクは好きだけどアナーキーみたいな直情的な歌詞をバカにしてインテリっぽく振る舞いたい子も、自分は文学的な人間だと思いたい子もみんな引き付けられる、そんな「わかりやすい」歌詞。
 子と書いたのだけど、『STOP JAP』というアルバムは80年代の中高生の子が最初に聴くパンクロックのアルバムとして最高のアルバムなんだと思う。歌詞問題によって新しい歌詞で録音しなおした上にミックスも変えざるを得ない経由があったアルバムだが、本来の音源である 『STOP JAP NAKED』を聴いた感想としては 『STOP JAP』の方がわかりやすいのだ。戦略的に狙ってた部分もあったり、みちろうの望んだ方向のミックスではないとか、急遽録り直すことで色々変わってしまったとか作り手としては思うところもあったとか色んな側面があるアルバムだと思うが、色んな偶然もあって中高生のための最初のパンクロックとして曲も歌詞も音の感じもちょうどいい感じになったのだと思う。
 様々な過激なエピソードでザ・スターリンを知り、焦がれながらも生のザ・スターリンに触れられなかった子供たち(自分の地元でライブがなかったり、知った時には解散してたような人)も大勢いるわけだが、『STOP JAP』みたいな音源があって本当に良かったと思う。ローリング・ストーンズを不良の音楽だと話を聞き、実際聴いてみたら全然不良に聞こえなくてガッカリした体験がある人はいないだろうか?「不良らしいぞ!」という子供じみた浅はかな考えで聴いたら、音楽的素養に欠けるために音楽が理解できなかったという現象だ。
 伝説的なエピソードに溢れるバンド全てがわかりやすい音楽性を持っているわけではない。80年代に村八分や外道の音源を音楽的な素養がまだない子供たちが伝説に対する期待感から聴いても、たいていの子はよくわからなくて期待外れということになるかも知れない。まあ、そういう子が伝説に対する憧れから非常階段をいきなり聴いても、よくわからないし怖すぎるから期待外れになったり。そういうことを考えると、『STOP JAP』は本当にそういう子供たちにも適してる。そこから入って、さらに音楽的に進んでいけば『虫』も『Stalinism』も待ってるし、ADKレコードだってあった。今だったら『Trash』だって楽に聴けるし。

 ザ・スターリンというのは本来ベーシストでなかった人がベースを担当していることが多いバンドだ。それがなんでだかは知らない。ただ、杉山晋太郎はルックスを買われて楽器未経験者なのにメンバーに誘われたわけだが、音楽的にも彼の存在は大きかったのではないだろうか。演奏面で。現在、比較的楽な形で演奏が確認できるザ・スターリンの前身バンドは自閉隊ということになるのだが、わりとロック的なグルーヴがあって、ザ・スターリンとの断絶がちゃんと感じられる。
 その断絶を担っていたのが晋太郎のような気がする、楽器ができる人が演奏する音楽を選択するということと、パンクロックをやるために楽器を始めるということの間には大きな違いがある。技術的なレベルの低さ、音楽的な経験のなさが偶然新しい演奏スタイルを産むことは音楽的にはよくあることで、ディス・ヒートのように意図的に超絶テクニックのメンバーの中に一人だけ完全な素人を入れるバンドだってある。晋太郎のようなベーシストが入ることで、ザ・スターリンはパンクバンドとして次のステップに進むことになったのではないかなと思う。

 晋太郎がいなくなってから後の『Fish inn』は凄くロック臭い。PILとサイケデリックを混ぜた感じというか、ゴスやポストパンクのサイケデリック解釈というか、そんな感じなのだが、なんというか凄くロック臭い。同時期にいっぺんに音源を聴いた高校生の自分は「遅くて反復でギターうねるやつ最初の方からやってるから、みちろうはこういうのが一番好きなのかなと。」と思った。

 虫(曲の方)などに見られる、そういうヘビーサイケみたいな感じは遠藤みちろう由来のもののように思われがちだが、脱退後の84年にADKからリリースされたタムのスタジオセッションが収録され『TAM BOY IDE/ BOOTLEG 』を聴いてみると、そこではタムの泥臭いサイケっぽいギターのインプロビゼーションが聴けたりするわけで、そこのところを簡単に判断できるわけでもないのも確かなのではある。

 三十数年前の高校生の自分に「『Trash』、10万円ださなくても買えるようになったぞ!」と言ってあげたい気もするが、そんなことを言っても「最初から東京行ったらジャニスで借りる気だから別にいいよ」とか言われそうだ。

(隔週金曜連載)

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【ロマン優光:プロフィール】
ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。現在は、里咲りさに夢中とのこと。twitter:@punkuboizz

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