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サブカルチャー 2018.03.23(金)

カブトムシを食べたアイドルについて:ロマン優光連載105

 

ロマン優光のさよなら、くまさん

連載第105回 カブトムシを食べたアイドルについて

「新人地下アイドルグループ〝かみつき!MAD-DOG〟がライブ中にカブトムシを食べて事務所を解雇になった件についてお願いします。」という編集氏からのメール。そういうわけで今回のお題は〝かみつき!MAD-DOG〟の食虫騒動なわけですが、実際のところ、そんなに騒ぐような話なのでしょうか……。
 動画を見る限り、食虫シーンはMCの最中、自己紹介的なコーナーで行われています。利き虫コーナーというバラエティ的なくくりで和やかな雰囲気で行われており、過激さとかおどろおどろしさとかは皆無。地下アイドルのライブでMC中に「特技は○○です!」とメンバーが言い出し、いざやってみると全然たいしたことなくて微妙な空気になるという、ありがちな光景と同じような感じです。ステージ上の雰囲気は本当に単なる特技紹介のそれなのです。これが曲中にライブハウスに解き放たれた大量のカブトムシを生きながら貪り食らうみたいなステージングがなされていたらビビると思いますが、そういうわけでは全くなく、カブトムシも食用に育てられたものだからメンバーの体の心配もないから安心です。
 とはいえ、イナゴといった食用イメージがある程度あるものと違い、カブトムシという食用イメージのない虫をを食べるのは世間的にはエキセントリックな行為かもしれません。世間一般が考えるアイドルのイメージの中には食虫は含まれていないでしょう。しかし、現在の地下アイドルシーンは多岐に渡っており、アイドルにあまり興味のない人、地上のメジャーのアイドルしか知らない人が想定するようなアイドルとはかけ離れたライブや活動をやっているアイドルも珍しくありません。ベタベタなアイドルらしいアイドルがいる一方で、「これはアイドルなのか?」と多くの人が疑問符を浮かべるようなアイドルも存在し活動しているのが、少なくとも東京の地下アイドルシーンの現状です。ある程度以上の奇妙なパフォーマンスが行われたとしても、面白い/面白くない、好き/嫌いで判断されていくことはあっても、シーンの内部で前代未聞とかいう判断を下されるようなことはあまりないのではないでしょうか。
〝かみつき!MAD-DOG〟のメンバーの中には抹茶らて利休さんという元〝ZOMBIE LOLITA〟の方がいます。〝ZOMBIE LOLITA〟というのは非常にわかりやすくいうと非常にアングラ臭の高い過激なゴスロリ・パフォーマンスユニットです。そういうパフォーマンスをやりそうにないキラキラ系や原宿系と言われるようなグループのメンバーがライブ中にそういうことをやれば衝撃度は高くなりますが、そういう経歴のメンバーがいるグループが虫を食べたところで、「そういうこともあるだろうな」と思ってしまいます。五木ひろしがコンサート中に全裸になって放尿したという話を聞いたらビビりますが、掟ポルシェがライブ中に全裸になって放尿したという話を聞いても、「今回は全裸だけでなく放尿までしたんだ。そういうこともあるんだな」くらいの感想しかでてこなさそうなのと一緒です。メンバー本人たちがいうように、そういう人脈の中にはもっと過激なライブをやってる人もいるでしょう。逆に、アングラな経歴を持つメンバーがいるわりには、かなりアイドルに寄せてきてる見せ方だと思います。炎上狙いとか、奇をてらったパフォーマンスというより、単に面白い特技を紹介したという解釈でいいんだと思っています。

事務所解雇は悲惨な話ではない

 事務所解雇といっても、資金提供の打ち切りみたいな内容を見るに、世間一般的な雇用関係というよりは、提携に近い関係なんだったのではと感じます。現在はセルフ・プロデュースのアイドルも以前より増えており、Wackに代表されるような炎上狙いの運営が色々奇をてらったことを仕掛けてくる一方で、女の子たち本人が自分の頭で考えた結果、やりすぎたり、がんばりすぎたり、何か間違えてたりして奇妙なことが起こることもまた増えています。セルフ・プロデュースといっても色々な形があります。資金繰りやマネージメントまで完全に自分たちでやっているところ。そこは他人に任せてコンテンツ部分のみを制作しているところ。事務所に入っているのだが、無責任な運営に放置されてしまい、結果的に自分たちで全てやっていかざるを得なくなり、限りなくセルフ・プロデュースに近づいてしまったところ。〝かみつき!MAD-DOG〟も、マネジャーを含めた一つの制作チームとして事務所と提携的な契約をしていたセルフ・プロデュースのアイドルであり、方向性の違いで袂をわかったということなのだと解釈しており、そこまで悲惨な話ではないのではないかと。悪い大人に無理矢理虫を食わされている可愛そうなアイドルでもなければ、狂気の過激なアングラアイドル集団でもなく、自分たちなりの解釈でアイドルをやろうとしているグループがそこにいただけの話です。
 とはいえ、これは東京の地下アイドルシーンのごくごく一部を見てきただけの自分の感想なので、地下アイドルを見てきた人でも違う場所で違うアイドルを見てきた人も沢山いるわけで、人によっては全く違う意見が出てきても当然のこと。それぐらい、東京の地下アイドルたちは細分化していっているのです。また、地下アイドルに限らない話なのですが、一聴すると過激に思えなくもない事象も既知のものであって完全に独自性をもっているわけではなく、結局のところ「誰がやるか」「どのように見せるか」「誰が見ているか(誰に見せるか)」が本当に重要であり、それによって単なる事象としては同じようなものが全然違うものになってくるのと改めて感じさせられる出来事でした。そして、「カブトムシにだって夢があるというのにそれを食べてしまうなんてッ!」と怒りだしてしまう『本気ボンバー!!』大好きッ子が会場に沢山いたら大変な騒ぎになっていたと思うので、そんなことにならなくてよかったと思いました。

(隔週金曜連載)

画像:かみつき!MAD-DOGイメージビジュアル

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