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サブカルチャー 2017.08.18(金)

牛乳石鹸のCM:ロマン優光連載90

 

ロマン優光のさよなら、くまさん

連載第90回 牛乳石鹸のCM

 大好きなスーパー転校生というアイドルが解散するという知らせに落ち込んでいたところ、「新井浩文さん主演の牛乳石鹸のCM『与えるもの』編が炎上している件と、アキラ100%が落語家に嫌われてる問題とどっちがいいですか?」というメールが編集氏から。「アキラ100%が落語家に嫌われてるって、そんなの特定の何人かが表明してるだけで、落語家全員にアンケートとったわけじゃないし、わかんないよ。何を言えっていうんだよ…。」というわけで、牛乳石鹸のCMを見ることに。

 え、何これ? 意味がわかんない。炎上してるポイントとしては「子供の誕生日なのに連絡もなしに飲みにいって帰ってこなかったくせに、なんか被害者みたいに描かれてる父親」というのが大きいと思うんですけど、全体を通して見てもチグハグで意味がわからないんですわ。
 この父親の設定としては「仕事人間だった父親を反面教師に家庭的で子供に優しい父親として生きてきたが、最近これでいいのかと悩んでる男」なわけですが、全然そんな風に見えないのです。まず、新井浩文さんが全編を通して生気のない目でほぼ表情なく演じているために、なんだか心を病んでいる人、もしくは殺伐とした異常者に見えてしまいます。多分、夫婦共稼ぎという設定だと思うのですが、男はゴミ捨てをやってるくらいの描写しかなく、新井さんの演技の力によって、『鬱っぽい男』か『ゴミ捨てを頼まれた程度で不満を見せる殺伐とした異常者』のどちらかにしか見えないため、家庭的な様子がいっさい感じられません。また、子供と遊んで笑顔になるなどの優しいパパ的な描写も存在しないので家族思いの要素が感じられないのです。
 それでは、会社での様子はどうでしょう? これが、やっぱり生気のない様子しか描写されず、『仕事をやるのがツラくてしかたがない人』か『全てのことに対して怒りを抱えた異常者』にしか見えません。
 男は帰りに誕生日ケーキを買ってくるように頼まれていたのですが、仕事中に奥さんから「誕生日プレゼントも買ってきて」とメールが届きます。そして、おそらく休憩時間中(帰りのシーンより日が高いので)に買いにいくわけですが、よく考えると変です。なんで、この家は当日にプレゼントを買おうとしてるのでしょうか? プレゼントなんて、休みの日に、あらかじめ買っておいて子供に隠しておかないですか? 生ものであるケーキは当日買うのは当たり前ですが、プレゼントはあらかじめ買っておいた方がよくないでしょうか?
 男はプレゼントとケーキを買って帰ろうとするのですが、仕事中に怒られていた後輩となぜか居酒屋で飲みだします。男は既に会社を離れていたわけですから、後輩はわざわざ呼び出されたことになります。この流れも不自然ですよね。帰りが一緒になってとかじゃないんですよ。しかも、奥さんかららしい電話にもいっさい出ないんですよね。そりゃ、帰ったら怒られるに決まってます。子供の誕生日でなくてもです。自分がこの後輩の立場だったら、凄くイヤな気分だと思うんですよ。何考えてるんだかわからない生気のない目をした病んでる感じの先輩とサシで飲まなきゃいけないなんて。昼間に上司に怒られて嫌な思いをしたばかりなのに、何でこんな理不尽な目にあわなきゃいけないのか…という気分になると思いますよ。家に早く帰りたい。彼女に会いたい。アイドル現場に行きたい。嫌な思いをした時に思うことは人それぞれ違うでしょうが、あの男とサシで飲みたい人はいないと思います……。

 奥さんに怒られたら、謝りもせずに無表情なまま風呂にいきなり逃走するのも病んでる描写、もしくは嫌なやつにしか見えません。風呂からあがってきて一言謝ったら、奥さんが許してくれるのも変。その上、子供が起きてきてパーティーが始まるのもおかしいですよ。そこは「寂しい気持ちで寝てしまった子供の寝顔」を見て、男が激しく後悔をして反省するとこでしょう! 演出が変なんだよ!

 そう、シナリオも演出もひどく、チグハグなシーンが続くため、家庭も仕事も嫌そうに見えるし、たいして家事も仕事もしてないみたいに見えるし、設定通りの人には全然見えないんですよ。しかも、新井さんの葛藤してる人の演技が迫力ありすぎるせいで、チグハグな話の流れと相まってよけいにおかしな感じになってる。
 シナリオ書いた人が最近の社会の状況を理解してない感じの家庭とかに興味ない人で適当にシナリオを書いたのか、演出の人のほうがそういう人で変な演出になってしまったのかはわかりませんが、出来が悪いの一言ですむような代物ですよ。子供の誕生日プレゼントに野球のグローブとか古すぎませんか? 自分が父親にキャッチボールしてもらえなかったことに対する思いを親が勝手に子供に押し付けてるようにも見えちゃいますよ。
 だいたい、石鹸のCMに見えないんですよ。石鹸、影薄いし。「電通はちゃんと仕事しろよ!」って話です。
 鬱に悩む父親が家族になかなか言い出せなかったが、牛乳石鹸で体を洗ってるうちに子供時代を思い出して涙が溢れ、そこから素直に家族に打ち明けることができ、家族も受け入れてくれた。これぐらいベタな話でやればよかったのに。

(隔週金曜連載)

写真:牛乳石鹸 web動画「与えるもの」篇(30秒)公開画像より
同CMは電通関西支社の制作です。

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