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サブカルチャー 2017.05.26(金)

映画『チョコレートデリンジャー』について:ロマン優光連載84

 

ロマン優光のさよなら、くまさん

連載第84回 映画『チョコレートデリンジャー』について

 吾妻ひでお・原作、杉作J太郎・監督による映画『チョコレートデリンジャー』が約10年の年月をかけて、遂に監督の故郷である愛媛県松山市で公開された。公開されたといっても、地方での公開ということもあり、私も含めた出演者の多くが現在の形を未見であるという状態。付け加えるなら、公開後も未だに編集作業が加えられ続け、常に最新ヴァージョンが生まれていっているわけで、最終的な姿はまだまだ見えてこない。いや、そもそも、この映画には最終的な形というのは存在しないのかもしれない。ジャンルを逸脱し、映画的コードから離脱し、実験すら乗り越えた不定形な混沌、それが『チョコレートデリンジャー』なのかもしれない。
『チョコレートデリンジャー』の撮影に入る時点で、この映画がそのような存在になることを想像したスタッフ、出演者は誰一人いなかっただろう。杉作監督本人も含めて。
『任侠秘録 人間狩り』『怪奇!!幽霊スナック殴り込み! 』の2作品を経験した杉作監督及び撮影スタッフのスキルは確実に上がっていた。役者兼スタッフという形で多くの人が参加していた前2作に対して、衣装さん、メイクさんといったプロ経験のある専属スタッフも増えていた。出演者もプロの役者さんが増えていたし、ロケ先も多岐に渡った。予算も格段に増えていた。「原作の漫画をそのまま絵コンテとして使用する」という斬新なコンセプトによって方向性にも迷いなく、シナリオも非常にしっかりしていた。何より、主演は現役のメジャー・グラビアアイドルの松本さゆきだ。彼女を中心に据えて、低予算・出演者の多くが演技の素人などの縛りはあるが、前2作よりもわかりやすい、商業性の増した、ポップな小品ができあがると思っていた人がほとんどだったのではないのだろうか。(伴映作品も企画され、ある程度進行していたはずだが、私はそちらには直接関わっていないために詳細は不明だ)。
「監督が商業的完成度のより高い作品を撮ることで普通に評価され、最終的には一般的な商業作品を撮れるとこまで行けたらいいな」と思っていたし、あのまま順調に進行すれば『チョコレートデリンジャー』はそういう意味を含んだ作品になっていたかもしれない。
 しかし、実際はそうはならなかった。最初のクランクアップから現在に至るまでの紆余曲折、そこで何が起こっていたかについては、後に語られた監督本人の言葉で知るしかない。私たちはクランクアップ後も延々と続く撮影、増え続ける出演者、ニューヴァージョンが生まれ続ける予告編、といった状況に戸惑っていた。まったく状況がわからないまま、話を聞かなくなり、もう公開はされないのではと思い忘れかけると、突如として思い出したように新情報がもたらされる。何年もそういう状況が続いた。そして今年、遂に『チョコレートデリンジャー』は公開された。
 現在公開されているものの原型になるであろう長尺の予告編を初めて見た時に私はのけぞった。かって想定された完成形からかけ離れたそれは、その時点で完全なる混沌だった。実験的とはいえる。しかし、実験映画には実験映画のスタイルというものが存在するわけだが、そういった文法から明らかに逸脱している。そのわかりにくさは同時にわかりやすいくらいに杉作J太郎その人であり、その姿はそのまま『チョコレートデリンジャー』の9年であり、杉作J太郎の過ごした9年間だった。
 未だに現時点での完成形(そして、それは更新され続けている)を見ていない私だが、これだけはわかっている。「いやー、あれヤバいよねー。」とかいう『サブカル』的な浮ついた見方をしていい作品ではないということだ。「ヒドすぎて笑っちゃう! 最高!」みたいな捉え方をしていい作品ではないということだ。面白い、面白くないという判断は個人が勝手にすればいい。感動する人も、酷評する人もいるだろう。ただ言えるのは、作品を見るからには真っ直ぐに向かい合わなければならないということだ。
 杉作J太郎という人は全てにおいて何かに反対することではなく、何かにならないこと、何かでないことを貫いてきた人だ。「そんな風に人は言うけれど、本当はそうではないかもしれない」ということを発し続けてきた。「あなたはそうかもしれませんが、私はそうではないのです。」と優しい笑顔で言ってきた男なのだ。

 反○○などというものは○○が存在しないと成り立たないものだが、○○でないということは○○が存在しなくても成立する。『反』などというものは対象があって初めて成立するもので、対象の陰画でしかない場合だって多い。反体制の革命家が独裁者に変わったり、反権力の言論人が自分に対するフェアな批判に不当な圧力をかけたり、そのような例は数限りなくある。『○○でなくある』ということは、そういった下らないループから逃れ、陳腐でわかりやすい物語から独立した存在であるということだ。そして『チョコレートデリンジャー』という映画も、そういう存在なのだと思う。
 関わった多くの人たちの人生と交錯しながら、「苦節何年、ついに傑作が!」という美談でもなければ、「苦労の甲斐なく駄作ができた!」というようなゲスな悲喜劇でもなく、単純な物語に回収されない名付け得ない状況を生む作品ができたこと、そういった作品が産まれる自由が世界にはまだあること、そういう作品をつくるしかない人生を生きている男がいることを私は幸せに思う。

(隔週金曜連載)

写真:映画『チョコレートデリンジャー』より

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ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。現在は、里咲りさに夢中とのこと。

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