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サブカルチャー 2017.02.03(金)

『1984年のUWF』を読んで:ロマン優光連載76

 

ロマン優光のさよなら、くまさん

連載第76回 『1984年のUWF』を読んで

 これは書評でも何でもない。ただ、私の中の何かを語ってるだけだ。
「ああ、あの頃の俺と同じだ…。」
『1984年のUWF』を読みながら何度もそう思った。あの頃の…小学校高学年から中学生にかけての私にとって、第一次UWFという幻想がどれだけ大きいものだったか。読みながら、何度となく思い出した。第一次UWFこそ唯一無二の本物だと信じていた、あの頃を。
 民放が2局しかないド田舎の子供だった私にとってプロレスというのは深夜に見るものだった。金曜日は一度早寝をして、23時半ぐらいに起きて一週遅れの放送でタイガーマスクと猪木の試合を見る。もちろん、新日本だ。父親がプロレス好きで現在でもサムライとかに加入しているような家だったので、普段では怒られるような夜更かしもプロレスに関しては甘かった。そもそも、私がプロレスを見出したのは父親に夜中に叩き起こされて見せられたのが最初なのだから。なぜか、その頃で一番記憶に残っているのはエル・ソリタリオなのだけど。
 スタン・ハンセンが移籍をしてから全日本プロレスも見るようになったのだけど、ウェスタン・ラリアットでなぎ倒され痙攣する阿修羅原を見て「新日本にはこんな無様な負け方をする選手はいない。全日の選手は鍛えられてない。全日は弱い。」と本気で思い、かなり格下に見ていた。それでもハンセンが見たくて全日も見続けていたのだが、長年に渡りその意識は抜けなかった。
 小学生の時は、子供向けのプロレス大百科の類や梶原先生の『プロレススーパースター列伝』、ブッチャーをはじめとするレスラーが書いたとされる本、菊池孝のようなプロレス記者の書いた本、手当たり次第に読み漁った。知らないレスラーの名前や特徴を覚えるのが楽しかった。その多くは実際に映像で見ることすらかなわなかったが、それゆえに膨らむ幻想がひたすら楽しかった。そういった中で村松友視のプロレス3部作に出会った。父が買っていたのだろう。今までの本とは違い、プロレスの見方、すなわち物の見方ということを始めて意識させられた本の一つだった。批評と言っていいのかもしれない。タモリや横山やすしに関する考察を最初に読んだのも村松友視の文庫版での『ダーティ・ヒロイズム宣言』の中の一文であったように記憶している。
 ご多分にもれず、小学校6年生にもなると試合の結果の予想がほぼ的中するようになっていた。最初にプロレスがそういうものだと気付いたのは木村健吾という選手の存在だった。健吾は、なぜ相手に当たらないような技、かけるのに無駄な手間がかかるのに効果が見込めないような技ばかり使ってわざわざ負けるような真似をするのか? 負けるとわかる健吾をなぜタッグパートナーにするのか? その疑問から「プロレスは基本的に勝敗は決まっている。」という結論を導き出すのに時間はかからなかった。それでも私は(ビデオが普及してない時代に年齢的に)見たこともない異種格闘技戦を根拠に猪木は本当に強いと信じていたし、勝敗は決まっているが試合の過程の中ではリアルファイトの時間があるとも思っていた。シリーズの途中の地方の試合では勝敗は決まっているが、最終戦やタイトルマッチはリアルファイトなのではないかと思ったり、噂に聞く前田対平田のような前座試合はリアルファイトなのではという風にも思ったりもした。それらも全て幻想だったのだけど。
 私はなんとなく気付いてしまったのだけど、それでもプロレスを楽しんでいたし、裏切られたとも思ってなかった。村松の記した「プロレスの勝敗は強弱ではない」という概念を読んでいたのが良かったのだろう。今になって整理してみると、私はプロレスとは虚実の狭間の中で過程の中の真実を見るものだというのに、村松からの受け売りで幼いながらに納得していたのだろう。いや、納得しようとしていたのだ。納得していたのなら第一次UWFに心踊らせたりはしなかったのだろうから。

たとえ『サイレントマジョリティー』が嘘だとしても

 小6から中1にかけての間に『ファイト』と『週刊プロレス』を読むようになっていた。『週刊ゴング』を読まなかったのは村松友視的な批評性を感じなかったからだろう。そこで私は『週刊プロレス』が推していた一つの団体に引きつけられるようになる。第一次UWFだ。そこには私が妄想していた真実、リアルファイトのプロレスがあると信じるようになっていた。私も日本中に山のようにいたであろう山本隆司記者の記事にのせられた一人だったということだ。私は現実の試合を一試合も見ないまま、第一次UWFの虜になっていたのだ。あの頃のターザンの文章はそれぐらい力があったし、素晴らしいものだったのだろう。それが、山本隆司の手による記事だということは私は意識していなかったのだけど。私はUWFという概念に夢中だった。私が第一次UWFに夢中になった要因をあげるとしたら夢枕獏の存在であろう。『キマイラ・シリーズ』の愛読者だった私は当然のように『餓狼伝』を手にとり、そこに色濃く反映されていた「打・投・極」ではじまるUWF思想にまるっきりやられてしまった。初期の『餓狼伝』はUWF思想の本当に優秀なサブ・テキストだったのだ。
 第一次UWFが崩壊し、新日本のリングに前田や高田、藤原があがってテレビマッチに映るようになると、新日勢との噛み合わない(あるいはそのように見える)試合に私は狂喜した。「キックや関節に対応できない新日勢、それは彼らが弱いからだ。」と素直に思っていた。『1984年のUWF』に登場するU信者と同じように「プロレスという枠の中でわざと負けさせられてる」と思っていたし、なんなら「プロレス最強とか言っていたくせに強者に八百長を強要する猪木たち権力者は汚い。」と思っていたぐらいだった。勝敗は決まっていても過程での本物の強さを見ようとしていた。まあ、そうやって見てるうちに気付いたのは「坂口が本当はめちゃくちゃ強いのでは。本物の柔道エリートは違う!」ということだったのだけど。
 そして第二次UWFの旗揚げ。最初は夢中だった。だったのだけど、徐々に冷めていった。時代の寵児となった第二次UWFの感じが肌に合わなかった。私が前田日明から感じていたのは反骨精神であって、時代の最先端とかどうでもよかった。ターザンの書く「密航」という言葉に吐き気がした。何よりビデオによって実際に見れる試合がつまらなかった。おかしいなと思う試合もあった。全試合がリアルファイトではないのだなと思った。あと、音楽の方に夢中になる時期とも重なり、プロレスから一時的に離れるようにもなった。
 気付いたら第二次UWFは解散していた。Uインターはプロレス、リングスと藤原組はリアルファイトとプロレスは混ぜてると思っていた。生まれて始めて、私のリアルファイトに対する読みが当たったのかもしれないが、別にどうでもいいことだ。私はU系というジャンルより、デスマッチ系の方に心が惹かれるようになっていた。プロレスという虚の中に潜む情けない人間の勇気という真実が本当に見れるのはデスマッチのような気がしていた。パンクラスがはじまり、本当にリアルファイトのプロレスが始まったのだけど、バーリ・トゥードという黒船がやってきた。私は総合格闘技に夢中になり高田の敗北を願い、確信した。UWFに本当のリアルファイトはなかった。
 だからといって私はUWFが嫌いになったりはしなかった。UWFメインテーマを聞くと今でも自然に体が熱くなる。未だに私の中でUWFは特別なものなのだ。
 村松から始まった「活字プロレス」というものに踊らされてきたのかも知れない。しかし、その中にあった『物の見方』という概念は今でも自分にとって大切なものになっている。たとえ、ターザン山本が権力と金銭欲の中で糞みたいな文章で読者をコントロールしようとし、今は何もない自己欺瞞に満ちた老人に過ぎなくても、まだ何者でもなかった頃の山本隆司の書いた文章の素晴らしさが失われるわけではない。
 プロレス最強論を、UWFを信じた経験のある中井祐樹が本物のファイターとしてリアルファイトでジェラルド・ゴルドーに勝ち、片目を失った状態でヒクソン・グレイシーと戦ったように、それが幻想であっても、その嘘を自分の身を通して真実にしようとすれば、新しい真実が生まれてくるのではないだろうか。例えば、欅坂46の『サイレントマジョリティー』の歌詞が秋元康のような業界人のあざとい考えで生まれた嘘だったとしても、メンバーが本気で真実だと思って歌い、聞き手が真実だと思って捉えれば、嘘だということを知って、それを乗り越えた先に真実が生まれるのではないのだろうか。
 UWFは幻想だったのかも知れないが、それを真実だと信じた子供たちの中に本物の総合格闘家になったり、そこにあった反骨心を日常の中で忘れ去らずに心に留めておこうとする人がいるのは本当のことなのだ。

 UWFについて語られていた言葉の多くは嘘に過ぎなかったのかもしれない。だからといってUWFという運動体自体の価値が損なわれるわけではないはずだ。当時、うたわれていた幻想とは別の部分で、本人たちすら意図しなかった真実を沢山産みだしたのだから。
 UWFメインテーマを聞くと未だに体が熱くなる。

(隔週金曜連載)

おすすめ書籍:1984年のUWF/柳澤 健(文藝春秋)
http://books.rakuten.co.jp/rb/14580712/

★読まないままで済ませたくない一冊★

『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』/ロマン優光(コア新書/コアマガジン)
http://bit.ly/2kztBT0(案内ページへ)

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______________________________

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【ロマン優光:プロフィール】

ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。現在は、里咲りさに夢中とのこと。

おすすめCD:『蠅の王、ソドムの市、その他全て』/PUNKUBOI(Less Than TV)
http://books.rakuten.co.jp/rb/13292302/

連載バックナンバーはこちら
http://mensbucchi.com/rensai-bn/20160322204147 (コピペして検索窓に)


 


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