
時代の歪み:杉作J太郎「美しさ勉強講座」連載39

軟弱な男たちの姿に見かねて、あの先生が立ち上がった!
杉作J太郎先生の「男の偏差値がぐんとアップする美しさ勉強講座」
39時限目・時代の歪み
先日、副都心線の新宿三丁目から電車に乗ったときのことだ。
電車が来て、ドアが開いた。小生の待っていた乗車位置では親子連れと小生の三人が電車を待っていた。若い母親と小学校低学年の男子であった。
かなり多くの人が降りた。そのとき。まだひとが降りてきているのに母親は猛然とドアに向かって進んだ。子供も後ろに続いた。降りてくるひとはまだ五、六人いた。降りる人を降ろし、乗る人を乗せて、電車は走り始めた。
小生は長椅子に座って、車内をぼんやり眺めていた。
午後二時すぎ。昼下がりの地下鉄はすいていた。小生のいる車両には十人ほどの乗客しかいなかった。ほとんどが空席である。
向かいに母親と子供が座っていた。涼しい顔をしていた。まだ若い。三十代前半だろう。化粧ッ気はあまりないが、ま、美しい顔立ちに属するだろう。子供の顔は見たけど記憶にない。子供は母親に続いて乗り込んだだけで自分の意志ではない。問題は母親だから母親に興味があった。
これが混んでいる電車であれば理解はできる。マナーとしても、円滑な乗客の乗降、電車の運行からしてもよくないことだが、誰よりも先に電車に乗って空いた席に座りたい。子供を座らせてやりたい。その気持ちはわかる。虚弱体質の児童という可能性もある。足を怪我している可能性もある。
だが。その電車は明らかにすいていた。
これで乗り込む人が多ければ椅子取りゲームみたいになるが親子連れの乗ったドア前で待っていたのは親子と小生だけである。
間違いなく座れる。
どう考えても急ぐ局面ではなかった。
あわてる局面ではなかった。
がっつく局面ではなかった。
テンション上げる局面ではなかった。
なのになぜこの母親は降りてくるひとたちを押しのけるように分けながらぐいぐいと車内に進んでいったのか。
顔立ちのまあまあ美しいこの女性は、なにを急いでいるのだろう。子供もそのことを別に不思議に思っている様子もなかった。どう理解しているのか。別にたいしたことではなく、理解するしないということでもなく、ただの日常だということなのか。
たいしたことないという気持ちに小生はなれない。
これはたいしたことである。
世の中の。時代の歪みはこういう末梢に現れてくるものだと思う。
道を歩いていると「スマホ」しながら歩いているひととぶつかりそうになることが一日に何度もある。怒りではなく寂しさを感じる。目の前のひとや景色には目もくれず、みんな、なにを見ているのだろう。誰と繋がろうとしているのだろう。その街角にブルースは流れない。おそろしいほどの静寂を感じる。もう死んでいるのかもしれない。
<隔週金曜連載>
撮影場所◎阿佐ヶ谷
※編集部都合により更新時間が遅くなりましたことをお詫びいたします。
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【杉作J太郎:プロフィール】
すぎさく・じぇいたろう
漫画家。愛媛県松山市出身。自身が局長を務める男の墓場プロダクション発行のメルマガ、現代芸術マガジンは週2回更新中。著書に『応答せよ巨大ロボット、ジェノバ』『杉作J太郎が考えたこと』など。
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