
一人の男との別れ:杉作J太郎「美しさ勉強講座」連載31

軟弱な男たちの姿に見かねて、あの先生が立ち上がった!
杉作J太郎先生の「男の偏差値がぐんとアップする美しさ勉強講座」
31時限目・一人の男との別れ
友人。池浜(仮名)の話。その続きである。誰だかわかると困るので前回よりも本当の名前から遠い仮名にした。
女運が悪い池浜はこれまで何人もの性悪女に騙され続けてきたが、ついに素敵な女性と巡りあった。
が、その女性は池浜にアイドル関連の趣味、及び仕事から完全に撤退することを要求した。つまり、コンサートやイベントに行くのはもちろん禁止。CDや雑誌の購入も禁止。もちろん過去に買って家の本棚やCDケースに置かれているものもすべて廃棄である。雑誌も写真集も生写真もカレンダーも。すべて廃棄処分。
それだけではない。池浜はアイドル好きが高じてアイドル関連の仕事もいくつか手掛けていたが、それもすべてやめることを彼女は要求した。
いや、そしてさらには、アイドル関連で知り合った人間との絶縁。これには俺も含まれていた。
いくらなんでも厳しすぎるだろー、と俺は思った。
池浜のアイドルコレクションは凄かった。貴重なアルバムや生写真をいくつも持っていた。カレンダーなども未使用のまま、いくつも保管してあった。
池浜がアイドルにハマった背景には女運の悪さがあった。結婚生活をしていたこともある。いくら仮名にしてもあまりえぐいことは書けない。本当にボロい女は自分のことをボロだと気付いていない。なにごとがあっても全部相手のせいにする。ここでなにか書いたらそれすら告訴されるかもしれない。
そんな池浜の前に現れたのがアイドルであった。最初テレビで見たのか、雑誌で見たのか、それを俺は知らないが、鬼の形相で池浜を罵ったオニババアみたいな女とアイドルはまったく違っていたのだろう。池浜はアイドルたちのかわいらしさ、まっすぐさに打たれた。寝食を忘れる勢いで池浜はアイドルにのめりこみ、投資した。
そうした暮らしは何年も続いた。
もう生身の彼女は必要ない。池浜はそう言っていた。が、そうした無欲が幸せを運ぶケースはこの世に少なくない。
ある日。
池浜はひとりの女性と知り合った。
「どうせカバかゴリラだろー」
「サンダ対ガイラじゃないかな」
「携帯の待ち受けをちらっと見たけど幽霊みたいな女だったぜ」
みたいな周囲の声と真逆に、その女性はかわいい女性であった。
「どうせふられるだろー」
「いや、もうふられてる」
「自殺するかもしれんな」
みたいな周囲の予想を裏切って、関係はとんとん拍子に進み、
「パイルダーーー、オーーーンッ!」
いつしか合体を果たしていた。
おめでとう、池浜くん。
偽善で言うのではない。
それほど池浜は女で苦労したのだ。
いや、今の時代、女と男の求めるものが微妙にずれている。素晴らしいパートナーと巡りあえることは素晴らしいことである。
だが。
池浜の顔色は沈み、みるみる元気がなくなっていった。やっぱり彼女は幽霊だったのだろうか。有名な怪談『牡丹燈籠』のように、幽霊にとりつかれた池浜はどんどん生気を吸い取られて、最後は絶命してしまうのだろうか。
と、思ったら、そうではなく、彼女からアイドル全般から足を洗うように要求されたと。そういう話なのである。
しばらく池浜は悩んでいたが、池浜は足を洗った。どっぷり頭の先までアイドルに浸っていると思われた池浜が、アイドル関連の私物をすべて処分した。売ったものもあったようだが、ほとんど捨てた。仕事も変えた。そして俺たちとの縁も、切った!
その後、ときどき俺たちと池浜はお茶をしたり、めしを喰ったりはしているが、以前とはなにかが違う。俺も変わったのかもしれないが。
とにかく、池浜はアイドルよりも彼女を選んだのだ。アイドルの応援よりも自分の恋愛を選んだのだ。
ま、当然の選択かもしれない。
当たり前のことかもしれない。
みんなそうして大人になるんだよと言うかもしれない。
だが、本当にそれでよかったのだろうか。
なにか、ひっかかるものがありはしないか。
彼女にしてみれば生活している部屋にアイドルグッズがたくさんあったらたまったものではないだろう。自分以外の、自分よりも年も若く、自分よりもおっぱいが大きく、ウェストが細く、足が長く、かわいい服を着て、誰にでもニコニコ愛想をふりまいている、そんなアイドルに夢中になっているのが自分の彼氏だったらたまったものではないだろう。
やっと愛する彼女ができた池浜がアイドルの世界から身を引いたのは当たり前のことである。
だが。
なぜだろう。
この寂しさは。そして負け試合のような感覚は。
長くなった。この寂しさの正体は次回。
(つづく)
<隔週金曜連載>
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【杉作J太郎:プロフィール】
すぎさく・じぇいたろう
漫画家。愛媛県松山市出身。自身が局長を務める男の墓場プロダクション発行のメルマガ、現代芸術マガジンは週2回更新中。著書に『応答せよ巨大ロボット、ジェノバ』『杉作J太郎が考えたこと』など。
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