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    実話BUNKAタブー2021年9月号

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グラビアギャラリー
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サブカルチャー 2016.07.29(金)

応援は大切です:杉作J太郎「美しさ勉強講座」連載28

 

軟弱な男たちの姿に見かねて、あの先生が立ち上がった!
杉作J太郎先生の「男の偏差値がぐんとアップする美しさ勉強講座」

28時限目・応援は大切です

 後藤と加護がモーニング娘。にいた頃。俺は劇団系の芸能事務所に所属していた。俺のマネージャーだった人の結婚披露宴のとき。披露宴が終わって俺は控室で礼服から普段着に着替えていた。

 同じ部屋で着替えていた事務所の社長が俺に言った。

「モーニング娘。の応援、しないわけにはいきませんか?」

 字面で見ると感じ悪いかもしれないが、世の中には言い方というものがある。それは決して感じの悪い言い方ではなかった。いや、むしろあたたかかった。

「わかります、わかりますよ、あなたの気持ちはよくわかります」

 言語化されていないだけで、そんな気持ちが言葉の中に含まれているようだった。事務所の社長ももとは役者で売れた人である。実はそれをさかのぼること二十年。

 今からだと三十五年ぐらい前の話だから古い。

 俺は社長とお会いしていた。俺がお笑い芸人を目指していた頃、新人として出たテレビ番組だ。社長はその番組のレギュラーだった。まだ当時は社長も若く、いわゆる売り出し中のホープだった。とはいえ、大きな事務所に所属していて売り出してもらったわけではない。たたき上げ、という言葉は適切でなさそうだが、自力で売り出したのだ。苦労されたと思う。それが人に対する雰囲気に出ていた。やさしく、あたたかな人だった。

 プロ初勝利を収めた横浜ベイスターズのルーキー熊原投手は、横浜スタジアムで声援に包まれながら「好きな野球をやってきてよかった、マウンドはやさしくて、あたたかい」と語ったが、まさしくそのマウンドにも似た、包み込むようなあたたかさを持つ人であった。

 社長がそれでもやめるわけにいかないかと言うには事情がある。すでに何度かマネージャーから伝えられていたが、事務所に所属している先輩たち、というか、プロの役者のひとたちがモーニング娘。のメンバーそれぞれと映画やテレビで共演していた。それも親子とか上司とか。重要な役どころで何人もの役者さんが共演していた。その同じ事務所の人間が「追っかけ」では具合がよくなかったのだ。「追っかけ」でも静かに黙々と追っかけていれば問題も少なかったのだろうが俺の応援はプロ野球の応援トランペットのような騒がしいものであった。

 ネット掲示板を中心に彼女たちは叩かれていた。縁もゆかりもない者が叩いているわけではない。自分たちを応援しているファンが罵詈雑言を書き込むのである。事実無根の誹謗中傷がほとんどであったが事実無根のこともしつこく何千何万回繰り返されればダメージである。

 彼女たちを人間不信の状況からすこしでも救いたいと考えて俺は友人たちと考えに考えてそして出た答えが「ちゃんと応援している人間もいるよ」ということを彼女たちに伝えたい、ということであった。一周回ってスタート地点とも言えるが、

「どんな文言がいちばん喜んでくれるかな」

「やはりまだ若いのだから単純に“かわいい”とかがいいのではないか」

「たしかにそうだ」

 ということになり俺たちはボードを作ったり、ネットに書き込んだり、会場で声を張り上げたり、雑誌やテレビ、ラジオに携わっている者は書いたり言ったりするようにこころがけた。

 大手出版社が彼女たちを取り巻く周囲のことをスクープとして取り上げることもあったが信じられない類の悪意、冷たさに満ちているものもあった。俺は同じ出版の世界にいる人間としてそれを恥じた。おもしろおかしければなんでもいい、そう思っていたわけではないが、たしかに1980年以後の世の中はその風潮がある。俺もその中のひとりだったというわけか。おもしろおかしければなんでもいいと言ってるうちに被害者は続出している。いままではぼんやりしていて気づかなかったのかもしれないが、気付いた今、黙っているわけにはいかなかった。

 馬鹿でいいと思った。馬鹿でなければ意味がないんだとも思った。「かわいい」「かわいい」と連呼している大人たち。ゴミみたいな馬鹿かもしれんが、少なくとも悪意はそこにない。冷たさもそこにない。

 話、戻るが、ベイスターズの熊原が頬を紅潮させて語った「あたたかい」マウンド、グラウンド、そして声援。先日、熊原の言葉に胸が熱くなったのは俺の中のそうした記憶が影響していたのだと、いま、思った。

 その模様を見た谷沢健一は、

「純だねえー」

 と目を細めた。酸いも甘いも清濁も併せ飲んだ過去が表情に出ている、元ドラゴンズのスラッガーである。谷沢の短い言葉「純だねえー」の言外には当然ながら「でもこの世界はそれだけではない」という厳しさを示唆するものがある。だが、いまはいいじゃないか。若い今は、それでいいじゃないか。俺もそれで行けるものならばそれで行きたかったという遠い昔の純だった自分。あれから幾星霜。裏切られることもあった、自分が裏切ったこともあった。自分で自分を汚したときもあった。だが。俺も。昔は純だった……。

 谷沢の話か俺の話かわからなくなってきたが、ま、みんなの話だと思ってもらっていい。大なり小なり大人はそうした感情で構成されているはずだ。

 ともかく。まだ若い彼女たちを絶望させたくなかった。

 彼女たちを絶望させたくない。

 そこを目指して当時の俺は活動していた。失ったものは大きかった。敢えて記さないが、ま、わかるだろう。だが得た者も大きかった。仲間である。

 だから社長に「やめるわけにいかないか」と言われた時、頭に浮かんだのは実は彼女たちではなかった。「やめます」と言えばよかったのだが言えなかった。そして俺は言ったのだ。

「やめるわけにはいかないんですよ、仲間も、ともだちもいるので」

 長くなりすぎたね。続きは次回。 

(つづく)

<隔週金曜連載>

____________________________

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【杉作J太郎:プロフィール】
すぎさく・じぇいたろう  
漫画家。愛媛県松山市出身。自身が局長を務める男の墓場プロダクション発行のメルマガ、現代芸術マガジンは週2回更新中。著書に『応答せよ巨大ロボット、ジェノバ』『杉作J太郎が考えたこと』など。

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