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サブカルチャー 2015.05.15(金)

ピース又吉『火花』を読んでみた:ロマン優光連載31

 

ロマン優光のさよなら、くまさん

連載第31回 又吉直樹『火花』を読んでみた?

「次回は又吉直樹『火花』についてお願いします。」というメールが編集氏から送られてきた時、正直やっかいな題材だなと思った。編集サイドとしては私が又吉氏のことを痛烈に批判しネットで話題になれば御の字という思惑なのかもしれないが、私としては又吉氏及びこの作品について特にネガティブな感情もなければ、かといって絶賛したいというわけでもない。とはいえ、それに対して何の代替案を持たない私はいつものように唯々諾々と受け入れることにした。何故ならこれは仕事であり、仕事というのはそういうものなのだ。
 氏の文体を一読した時に思ったのは「板の上で言葉を扱う人の書く文としては、リズム感があまり感じられない文体だな。」というものだった。リズム感というやつはあればいいというものでもなく、私にとって最近の作家で最もリズム感のある文章を書く人は川上未映子氏なのだが、その過剰にリズムに支配された文章がゆえに私は川上氏を敬遠しがちだ。又吉氏の少しテンポの悪いようにもとれる文体なのだが、テレビで見知った又吉氏の口調で脳内で再生するとこれがしっくりとくる。そういう風にして読み返すとまた少し印象が変わってくる。しかし、これは又吉氏という人物をテレビなどで知らなければ成り立たないことでもある。それは要所要所で感じられる部分だ。
 個人的な感想としては、非常によくできていて楽しめる部分もあれば、構成や文章など荒いと感じられる部分もあり、新人の第一作としてはそれなりに楽しんで読めたというのが率直なところだ。しかし、これが芸人として知名度のある又吉氏の作品でなければ掲載された作品なのかは疑問である。文芸作品などというものは編集者にほんの些細な欠点を指摘され続けて矯正を繰り返す過程を経て世にでるものなわけで、 これが他の人なら掲載は許されてないのではないだろうか。いや、十分鑑賞に耐える面白い作品ではある。しかし、又吉氏が又吉氏であるがゆえに矯正の手が緩かったのではないか。かといって、氏ほどのレベルで書くことができる人がどれだけいるかといると、そういないだろう。まあ、多少荒い部分があろうが面白い部分があるのなら、そちらに目を向けて世にだすというのは、本来全然間違ってないのだから、悪いことでもない。 たとえ、出版社が氏の知名度による雑誌の売上向上を意図していたとしても。そもそも、氏には悪い部分など一つもないのだ。
 又吉氏本人が世間に広く知られてることである程度優遇された部分はあると思うのだが、いいことばかりではない。題材が芸人の世界であり、私小説的にとる人も多いだろう。登場人物に実在の芸人を投影し、イメージが非常に固定化されるのもそうだが、作品のラストと現実の氏の状況の違いに首を傾げる人もいるだろう。作品としては、あの終わり方が一番美しいと思うのだが、作者自身と主人公があまりにも近すぎたのも、微妙な感情も生まれてくる。作者が氏だと知らなければ、生まれないはずの感情だ。作品以外の要素が作品の読後感にいらない影響を悪い意味で与えてしまう。氏が純文学を目指すのであれば、氏の作品が作品として純粋に鑑賞される機会をあらかじめ失っているのは非常に不幸なことなのではないだろうか。

お笑いと小説の違い

 しかし、私は又吉氏のことを素直に偉いと思う。芸人として多忙な日々の中で『作品』を書き上げたことを。日々の仕事に追われる中、小説を書いている人は沢山いる。氏だけが特別なわけではない。ただ、〝お笑い〟という言葉を扱うという点では似通った職業の人間が小説というものを書くのは、逆に非常に大変なものがあったと思うのだ。ライターを長年やっていると小説を書くのが難しくなってくる。文章を書くという点では非常に似通ってはいるが、実は求められるものが全く違う世界だからだ。小説では描写してはいけない部分を、読み物でははっきり書かなければならず、読み物では書いてはいけない部分こそが、小説では肝心要の書かなければいけない部分であったり。読み物ではわかりやすく一つの意味を伝えなければならないが、小説では多種多様な解釈が許される。同じ文章を扱う仕事だからこそ、ライター癖がついてしまうと小説的な文章がかけなくなってしまう恐れがある。同じ格闘技だからといって力士が総合格闘家にすんなりなれるかというとなれないのと一緒で、使う筋肉が違うのだ。お笑いに携わる人間が小説を書くというのも、これと同じなのだと思う。なまじ、同じ言葉を扱う仕事だからこそ生まれてくる難しさがあるはずだ。『火花』の「ここは描写する必要はないのでは」という部分は、おそらく漫才やコントでははっきり描写しなければいけない部分で、描写的に食い足りない部分もまたそこの差から産まれてきたものではないか。『火花』の荒い部分の一部分はそこの部分の不慣れさから生じていると個人的には思う。そういう不慣れさはあっても『火花』は文学作品として十分成立しているわけで、これは大変な作業だったのではないだろうか。こういうことを言うと純文学を高く見ているとかいう話に捉えられがちなのだが、そういう話ではない。単に違う競技だというだけの話だ。一つの競技で成果をだしながら、別の競技で結果をだすということは讃えられてもいいことだとは思う。
 個人的には良い部分はあるが特に賞をとるほどの優れた作品ではないと思うし、作品をとりまく外野の状況がうさんくさかったり、わかる部分はあるのだけど手放しで世界観を受け入れられるタイプの小説ではない。しかし、お金にもならないし、世間的評価も得られ難い純文学、同じ時間を費やすなら芸人仕事をしていたほうが遥かにいいにもかかわらず、そこに情熱を持って取り組んだ又吉氏本人に関してだけは手放しで立派だなとは思うのだ。

【ロマン優光:プロフィール】
ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っている。好きなアイドルは、イニーミニーマニーモー。

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オススメ書籍:「火花」又吉直樹(文藝春秋)
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