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サブカルチャー 2014.10.17(金)

POWER SPOT・豊田早姫の卒業によせて:ロマン優光連載16

 

ロマン優光のさよなら、くまさん

連載第16回 POWER SPOT・豊田早姫の卒業によせて

 豊田早姫という人がいる。約三年間、POWER SPOTというアイドルグループ等でアイドルとして活動をしてきた人だ。豊田さんを最初に見たのは「オレンヂ」というグループにいた頃、いわゆる地下の対バンライブで物販中の姿だったと思う。当時の豊田さんは凄くかわいいけど、なんだか余裕がないというかピリピリしてるというか、とっつきにくい印象の人だった。ただ、「何でこんな人がこんな場所にいるのだろう。」と思ったのはよく覚えている。それが、豊田さんに関して考える時にいつも感じる思いになっていくわけだが。

 豊田さんはAKB研究生11期として御披露目された直後に、諸事情につき活動辞退することになった人だ。その顛末については、本人が過去のインタビューで語ってるので詳しいことはそれを読むのが一番いいと思う。その人がライブアイドルとして活動を始めるにあたっては色々な思いがあったとは思うが、私がそれが何であるかを知ることはできないし、軽々しく語ることもできない。私がわかることは、豊田さんがもう一度アイドルを始めるためにステージに立ち、そしてその三年間の活動が本当に素晴らしかったということだけだ。私にとって豊田早姫という人は、徹頭徹尾「スター」であり、推しとかそういうものとはまた違った感情を抱かせられる人だった。
 豊田さんのステージをしっかりと注目するようになったのは豊田さんが在籍していたオレンヂと、別にあったPOWER SPOTというグループが合体し、POWER SPOT名義で活動するようになってからだと思う。豊田さんは魅力的なステージをする人だけど、けっして器用な人ではない。元来、歌が上手いわけでもなければ、 ダンスのスキルがあるわけでもない。クールなルックスとは裏腹に努力の人である。そして、この三年間、一度も進歩するのをやめなかった人だ。

 豊田さんは同時期に活動しているアイドルの中で特別に意識が高い人間の一人だったと私は思う。ライブでの盛り上がりのみを重視する風潮の中、いわゆる地蔵と呼ばれる層について、「私も好きなアイドルさんを見るときは身動きできずにじっと見てしまう。でも、そういう人たちが見せてくれる笑顔はその人たちの精一杯の表現でちゃんと気持ちは伝わってくる。」と肯定的に言及したことはライブにおける多様なあり方を認めることであり、間口を広げるということにあの人は意識的だったと思う。楽曲中のブレイクというものの存在について考えることで音楽の構造に自体を捉えようとしていたり、ことあるごとに豊田さんは色々な物事を俯瞰的に捉えて考えてきてたし、そういった幅広い視点は豊田さん自体を大きく成長させアイドルとしての佇まいを深化させていった。アソビットシティでPOWER SPOTのリリイベを見ながら「この人は本来、今日武道館でじゃんけん大会に参加しているべき人なのに、なぜここでこの人数を相手にライブをやっているのだろう。ここまでの傑物が…。」と思ったことを思い出す。いや、その日ばかりでなく同じような思いは何度も感じた。
 しかし、豊田さんのそのような成長は、アイドルのいる情景の一番上と下を垣間見ることができたこと、恵まれているとは言えない環境の中、そこから這い上がるために自分自身で色々なことを考えて余儀なくされたことから産まれたものだから、そこは難しい話ではある。ただ、似たような状況のアイドルが「なんとなくライブをやって、ちょっとオタクにちやほやされて、なんとなく楽しくて」ぐらいで終わってしまうことが多いことを考えれば、豊田さんの意識の高さはやはり最初からだったのだろう。最前周辺にレスを送りがちな状態から、後方にも視線が意識されるようになった状態を経て、アイドル上級者だけが持ち合わせる「どこから見ていても、見てる人みんなが目が合ったように錯覚させる視線」を豊田さんがあの環境の中で身につけた時、「やっぱり、豊田さんは凄い人だ。」と自分がレスを貰うことよりも嬉しかった。

野心を捨てた後に加速する透明感

 こう書いていくと豊田さんは凄く完全無欠の人のような印象だけど意外に天然ボケで、スカイツリーの写真をアップした時におもいきり「大人のおもちゃ」の看板が写りこんでいて、ファンも指摘するにも指摘できずに困ってしまったことがあって、そういう間の抜けたところもまたアイドルとしての可愛さに繋がっているわけで。
 私が歌というものに一番求めているのはいわゆるスキルではなくて声の良さで、その点で豊田さんの歌声は私の中で理想的なものの一つであり、ソロ名義の『サイン』という曲で聴くことができる、Autotuneによっていくら加工されようとも去勢することのできない歌声の凄みは、私にとって言葉を尽くしても語りきれないかげなえのないものだった。月日を経て、豊田さんが人間として成長していくのとは反比例するかのように歌声はどんどん若返り処女性を高めていく不思議に「やっぱり豊田さんは違うな。」と私は暢気に考えていたものだ。そんな豊田さんが2014年10月22日をもってPOWER SPOTを卒業、芸能界を引退する。

 去年の終わりくらいから「来年成果があがらなければアイドルとしての活動を撤退する」ことを匂わす言葉が豊田さんの口から出るようになっていた。そんな中、今年の頭に人気メンバーの唐突な卒業があり、ある程度の覚悟はしてたものの、私は「あれほどの逸材だから別の形で芸能界に残るのではないか」とたかをくくってたところはあった。それは豊田さんがアイドルにかける想いを軽くみていた私の愚かしさにすぎなかった。
「いつか地上に」と言った意味のことをことあるごとに口に出していた豊田さんが、そんな野心を捨てた後に見せてくれる最近のステージの素晴らしさというのはどう言えばいいのだろう。少女に向かってどんどん逆行していくかのごとく透明感だけがひたすら増大していく。このまま本当に透き通ってしまうかのように。
 豊田さんが地上にあがることも、何年か後にテレビで豊田さんを見ながら「俺、あの人と喋ったことがある!」と友達に言って「嘘でしょ!」と否定されるという私のぼんやりとした夢もかなうことはなかったけど、豊田さんがアイドルでいてくれた三年間は本当に色々なものを貰うことができた。私は豊田さんのオタクとも言えないし、良いファンとさえ言えないような、つかず離れずないい加減な接し方しかしてこなかったけれど、本当にありがとうと言いたい。そして、本来だったら出会うこともなかったであろう「スター」に出会わせてくれた運命の不思議に感謝したい。

 10月23日という日は豊田さんが研究生を辞退することで夢を諦めた日であり、再び夢を取り戻すためにオレンヂでアイドルデビューをした日、そして今年の10月23日は前日にアイドルとしての自分を完遂させた豊田さんが看護士という新しい夢に向かってスタートを切る日になる。

 最後に。豊田さんみたいな可愛い人が一般社会にいたら、周りのみんな困っちゃうよな。

【ロマン優光:プロフィール】
ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っている。好きなアイドルは、イニーミニーマニーモー。

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オススメCD:オートチューン(WORD IS OUT!)/プンクボイ

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