
あいつがヤツラ、お前がヤツラ、俺自身がヤツラ。:ロマン優光連載6

ロマン優光のさよなら、くまさん
連載第6回 あいつがヤツラ、お前がヤツラ、俺自身がヤツラ。
とりあえず、例の事件で犯人がヲタじゃなかったことで、アイドルヲタク叩きが不発に終わった方々、お疲れ様でした。でも、世間の人は漠然と犯人はヲタクぐらいに思ってるから大丈夫ですよ。安心してください。電通の陰謀による炎上商法説を唱えていた方々、はやく病院にいって適切な治療が受けられるといいですね。ここぞとばかりに握手会商法叩きに嬉々として励んでいた方々、楽しそうで何よりです。知り合いのアイドル好きでもなんでもない人が事件の話を聞いて「若い娘さんが可哀想に。さぞ怖かったことだろう」と言ってました。この言葉が私にとっては全てです。
池袋通り魔殺人の造田博は、「自分の不遇は兄を代表とする小汚いものたち/努力しない人たちの陰謀である」という妄想を抱いており、イタ電をかけてきた(と造田が思っている)「努力しない人」の一人である同僚に対して激しい怒りを持っていたのにもかかわらず、兄も同僚も殺すことなく、池袋で老人や女性を殺した。
土浦の金川真大は妹やヤフオクで物を送ってこなかったやつに対して殺意を抱きながら「誰でも良かった」と通りすがりの老人を殺した。
加藤智大は母親に対する激しい憎悪を抱きつつも「なりすましや荒らしをやめてもらいたいとアピールするため」に秋葉原に走ったと主張し続ける。
通り魔殺人の犯人がいう「誰でもよかった」と言うのは、「(○○の条件を満たしていて、自分より弱いやつであれば)誰でも良かった」ということであって、結局本当に殺したい奴が怖くて殺せないから代わりに自分より弱いやつを殺そうとする。造田は兄や同僚に、金川も妹に、加藤も母親に怒りを直接ぶつけることができなかった。宅間守だって、あれだけ憎んでいる父親を殺せなかったではないか。どんなに憎んでも精神的に勝てないのが染み付いているから、代償行為として無関係な他者を襲う。本能的に自分が絶対に勝てそうな奴を。
AKBを襲った犯人の心理
AKBが憎いのなら、秋元康や電通を狙うならまだ意味はわかるが、無防備な女の子を狙うことしかできない。そもそもAKBに対する憎しみがあったとするならば、それは代償行為であり、本当に許せないもの、憎んでいるものが別にあるはずだ。憎んでいるものがあっても怖いから手をだせない、手をだせない理由に目を塞ぐ、代わりに他の誰かに怒りをぶつけようとする、誰でもいいと言いながら自分より弱そうな奴を選ぶ。たとえ、他者によって自分がスポイルされてしまったという事実があったとしても、その後の人生でおきた問題は結局自分のせいであり、その現状を回復していくのは自分自身でしかなく、その自分の責任に耐えられないから、「やつら」のせいにして、自分を正義の側において正当化を図ろうとする。でも、それは通るわけがないから時々破綻する奴がでてくる。その激情や悪意を社会のルールを逸脱する形では出さずにいる人間はたくさんいるのだから、それをだした時点で負けだし悪でしかない。
ただそれだけのことで、こういう奴はいつの時代にも、どこの場所にでもいるし、これからだっていくらでもでてくる。 彼らは自分の不幸さに酔いしれて、自分が犯す行為によって相手が味わう苦痛や不幸には想像力が全く働かない。だから社会で受け入れられないし、それが自分のせいだともわからない。
自分の不遇を誰かのせいにしたい気持ちは誰だってあるし、自分にだってある。だから、「若い娘さんが可哀想に。さぞ怖かったことだろう」という最低限の想像力が大切なのだと思う。他者を自分のことのように感じられる想像力だけが、世界と自分との断絶から解き放ってくれる可能性があるものだから。
【ロマン優光:プロフィール】
ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っている。好きなアイドルは、イニーミニーマニーモー。
オススメCD:『暴力大将』 [Single](DAIKI)ロマンポルシェ。
シングルなのに7曲も入ってお得です(うち2曲が説教)
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