
米山隆一衆議院議員インタビュー:「国債は国の借金ではない」という「甘い夢」を斬る

積極財政論や反緊縮財政、MMT理論、そして「国債は国の借金ではない」といった言説が大きな注目を集めている。
長く続く景気の低迷や、現在進行系で起こっている(2022年12月時点)インフレや株安などの経済的な不安定さなどを、一気に解決するかもしれない「魔法の杖」のような捉え方をされるこの言説について、立憲民主党の「新しい金融政策WT事務局長」も務める米山隆一衆議院議員は、党内・国会での議論だけではなく、SNS上でも異を唱え続けている。医師の肩書も持つ氏の考える「積極財政派につける薬」「国家財政の治療法」を伺った。
(※このインタビューは2022年12月に行われたものです)
快感を呼ぶ“間違った”言説
――米山さんはSNSやブログ上で積極的に発言をされ、経済政策についても多くのコメントを残されています。中でも、積極財政や反緊縮、MMT理論などの論者とSNS上では「レスバ」をなされていますが、その意図について教えてください。
米山 単純に「間違えているから」「間違った情報を発信しているから」ですね。私は間違った情報が流布するのは非常に嫌いなんです。
――では、なぜ「間違った」言説が、大きな注目を集めると思いますか?
米山 「心地よいから」でしょうね。非常に都合よく、総てを解決するように思われています。そして、総てが全くの嘘なら広まらないのですが、間違った中に一部は本当のことが含まれているから、余計に広がりやすいんじゃないかと思います。
例えば「ピザゲート事件」は、それだけ取り上げたら荒唐無稽な話なんですが、「ジェフリー・エプスタイン事件」が起こったことで、その陰謀論が補強されてしまった。同じように反緊縮やMMT理論の中にも、一部の事実があるから、まことしやかに流布しやすいんだと思います。
――その「一部の事実」というのは?
米山 一例を挙げれば「国債は無限に発行できる(借りられる)」という話ですね。たしかに「ある条件の下では国債は無限に発行できる」のは事実です。ただ、「ある条件の下では」がすり替わって「常に国債は無限に発行できる」という話になり、それが「国債は返さなくていい」になり、「国債は国の借金じゃない」になってしまう。
普通に考えればどこからどう見ても「国債は国(国法人)の借金」です。でも一部の人が「国債は国の借金じゃない!」と発信するのは、そう言うと、その「一部の真実」に感心して驚いたり、賛同したりする人が出ることで、承認欲求が満たされて、それが“快感”になってしまうからなんだと思います。また、ちょっと言いづらいですが、「お前はこんなことも知らないのか!」と言って人を馬鹿にするのも、結構多くの人にとっては、薄ら暗い快感なんだと思います。
――それがインフルエンサー的な過激さにつながってしまうということですね。
反緊縮派が展開する“陰謀論”
米山 私がSNSで繰り返しているところですが、積極財政論/反緊縮/MMT理論の人たちがいう「国債は国民の資産だ」という理屈は、別になんの驚きもない、当たり前のことなんです。
例えば、私が銀行からお金を借りれば、私の借金は銀行の資産になります。国債に限らずあらゆる借金は、借り手にとっては借金ですが、貸し手にとっては資産です。だから国債が国民の資産だというのも当たり前なんです。でもそれが、あたかも大発見のように言われたりすると、それを考えたことのない人にとっては、驚きの新事実になってしまう。
先程の「ある条件の下では国債は無限に発行できる(借りられる)」も同じで、実は国債に限らずあらゆる借金は、ある条件の下では無限に借りられます。話を私の家庭に置き換えてみましょう。
例えば私が年収500万円、妻の室井佑月さんが年収1500万円だったとします。2022年に私が室井さんに500万円借りて、お互い年間1000万円で生活したとします。そうすると、2022年にそうやって生活できたんですから、2023年も、2024年も同じように生活できますよね。私の室井さんへの借金が、500万、1000万、1500万と増えるだけで、室井さんさえ貸し続けてくれるなら、私は室井さんから無限にお金を借りられる。別に国債でなくても、あらゆる借金は相手が貸してくれさえすれば、無限に借り続けられるんです。
――そうですね。米山さんと室井さんが合計で年間2000万円使って生活しているということも変わらない。
米山 そうなんです。そして、私が10年間それを続けて借金が5000万円になっていても、私と室井さんがそこに合意していれば、ウチの家庭的にはなんの問題もない。
でも、ひとたび室井さんから、「もうお金は貸せないよ。それにそろそろお金返してくれる? 米ちゃんのせいで私もあんまりテレビにも出られなくなったし」みたいに返還を求められた時、なんとか返せる額だったらまだいいですが、自分の収入を遥かに超える額になっていたら……。まあ、そこで大喧嘩が勃発して、婚姻関係すら破綻しかねないことになるんです(笑)。
――ハハハ。
米山 そこで私が「いや、これは私の借金だけど室井さんの資産だから何の問題もない。室井さんは5000万円の資産を持つお金持ちになったんだから、よかったじゃない」とかと言い出したらどうなります? まあ間違いなく室井さんは激怒するでしょうね。そこでなんとか室井さんを説き伏せて納得してもらったとしても、室井さんが外でその話をしたら、私の社会的な信用はなくなりますよね。「米山は、5000万円も借金をして、返せと言われても開き直って返さない。あんな奴に金を貸しちゃいけない」と。
――米山さんを政府、室井さんを国債購入者だとして、確かにその両者の間で合意ができたとしても、国際常識的なルールから外れていたら、世界的な信用はなくなりますね。
米山 「あそこは常識が通用しないんだ。まともなビジネスルールが成立しないんだ」という話になります。だから「国は国債を無限に出せる」という常識的ではないことをやり続けたら、どこかで大混乱が起こるんです。
――MMTの人は通貨を発行すればいいと言いますが……。
米山 それは室井さんが持っている私に対する債権―私から見たら借用証書を、私が例えば「お手伝い券」を発行して買い取るってことになります。そうすると借金はなくなりますが、「お手伝い券」が残るので、室井さんがそれを受け取ってくれて、私が本当に「お手伝い」をできるなら、成り立ちます。
でも室井さんにしたって、お手伝い券を1000万円も2000万円ももらっても使いようがないし、「米ちゃん本当にこれだけのお手伝いできるの?」となります。室井さんの債権(私の借用書)をお手伝い券に替えたからといって、本質は何も変わらないんです。
債権であれ通貨であれ、無限にあるものは実行できません。それに無限にあるものはそれ自体で価値がなくなります。国債であれ通貨であれ、総量管理は絶対に必要なんですよ。
――労働や作物などの、「価値」を「数値化」して代替するためのものとして通貨があるとしたら、それが有限でないと価値はなくなりますね。永久機関が生まれない限り。
米山 はい。だから、債権/通貨は常に総量規制のもとにあるわけです。それは当然の帰結だし、「国債/通貨は無限に刷って(発行して)良い」というのは、根本的に矛盾した話なんです。
それなのに、その「国債/通貨は無限に刷って(発行して)良い」という話と現実を無理矢理辻褄を合わせようとするから、今度は「実は財務省の陰謀によって国債/通貨を発行することができない」みたいな、他のなにかを悪者にするような話になってくる。そして更にまた辻褄が合わなくなると、今度は「マスコミも政治家も財務省に洗脳されている」みたいな更なる陰謀論で悪者を作って……と、反緊縮や積極財政は、陰謀論の典型的なルートを辿っていると思いますね。
それに、政府がひたすら国債を発行し、中央銀行、日本で言えば日銀が、その国の国債をひたすら買ってひたすら通貨を発行したら直ちに景気が良くなるなら、どの国もやっていますよ。岸田さんだってこんなに支持率低迷で苦しんでないでしょう(笑)。そんな素晴らしい方法があるなら、財務省の顔色を窺ったりせず、とっくに国民の為にも自分の為にも実行しています。それなのに、どの国もやってないし岸田さんもやらないのは、そうしない合理的理由があるからなんです。
それ以前に、美味しい話というのは、必ず伝播するものです。ここからは医師からのバッドジョークですけど、バイアグラが広まった理由はご存知ですか?
――教えてください、興味があります(笑)。
米山 バイアグラはもともと、高血圧の薬だったんです。ところがその治験をしたら、なぜか男性の被治験者ばかりが薬をなくしたという。余りにもそれが多いので、原因を調べてみたら、「いや、あの薬を飲むと女房が喜ぶんだよ。だからなくしたことにしてため込んでいたんだ」と。それで男性機能に効果があることが分かったんです。
そして私自身医者をやっていた時は、いろんな人から「あの薬ないの?」って言われました(笑)。一般的に広まる前から、口コミでその薬効が広まっていたんです。
だから「反緊縮や積極財政で一気に景気が良くなる」という特効薬があるなら当然どこかの国の誰かがやって、とっくに広まっているはずなんです。この方法は人に教えたって自分は損をしないんだから、秘匿する理由もない。そんな美味しい話があるのに、世界中の学者も、政府関係者も全く気がつかなくて、一部の人だけがそこに気がついているなんてことは起こり得ないでしょう?
――そうですね。
米山 MMTって、国家の不老不死の薬が作れる、無税の桃源郷が作れるみたいな話ですから、できるなら、みんなやっていますよ。しかもその方法が、「ドラゴンボールを7つ集める」みたいな難しい話じゃなくて、ただ単に、「国がひたすら国債を発行し、日銀がひたすら紙幣を刷って、それを買えばいいだけ」という簡単な話なんですから。でも、どの国もそれをやらないのは、別に陰謀じゃなくて、それが不可能だからなんです(正確にはやった国はありますが、いずれも見事に失敗して現実に破綻しています)。
富裕層からの増税も選択肢に
――ただ一方で、これだけ不景気が続いて、少なくとも就職氷河期世代以降は、一部の人間を除いて好景気を感じたことはないし、これから明るい兆しも見えない。だから、これは非論理的な俗情かもしれませんが、「景気が良くなって、給料も上がって、老後の心配もない、一発逆転できる魔法のような特効薬」があってほしいと思うのは、仕方ないことだと個人的にも思うんです。
米山 その気持ちもわかるんですよ、もちろん。でも原油が湧き出すわけではないから、現実的に、着実に解決していくしかないんですよね。
――それは増税も含めて?
米山 そうですね。でも、そのやり方ってたくさんあるんです。例えば、端的に富裕層からの増税という方式がありますよね。積極財政派や反緊縮の人たちは、なぜか税金に対して非常に忌避感が強いように思うのですが、なんで自分たちではない側への増税、お金持ちへの増税をそこまで忌避するのかと思います。
――確かに、お金持ちからの増税なら、特にこの本の読者はなにも困らないはずです(笑)。
米山 国債に関しても、半分は日銀が買っていますけど、もう半分は民間―基本的にはお金持ちが買っているんですね。そこでお金持ちのお金が、国債を通して国に流れて、社会保障に寄与しているなら、それは税金と一緒ですよね。
――流れや見かけ上はそうなりますね。
米山 でも、税金と国債の違いは、返す必要があるかないかです。国債はいつか買った人に利息をつけて返さないといけない。そしてその償還費用や利息は、国民から集められた税金から支払われます。
――国家の機能として「富の再分配」があるとしたら、その逆のことが起きますね。
米山 そうです。国債というのは、同世代における分配の問題であって単純な将来世代への借金ではないのですが、結局のところ再分配問題を逆に難しくして後世に渡しているんです。だから私は、「国債は未来の投資」みたいな話をする政治家をみると、正直ムカムカします。
極めて単純化して話しますが、国債を発行する時は、お金を持っている人から、お金を持ってない人にお金を流すので、大義名分があり、政治的に極めて容易なんです。だけど、国債を返す時には、お金のない人からお金を集めて、お金のある人にお金を流すという、政治的に極めて困難なオペレーションになります。その困難な政治的オペレーションを解決するツケを大量に後世に残しているのが、いまの状況です。
私は、次の世代にそういう困難なツケを残すというのは、政治家としてやってはいけないことだし、自分たちの世代の課題は、自分たちで解決しないといけないと思います。
――財源も含めて、と。
米山 増税という難しいオペレーションから逃げてはいけない、私たちの世代がお金持ちから金を取らなきゃいけないなら、私たちの世代がお金持ちをちゃんと説得しなきゃいけないんです。
――ただ、それはどう説得しますか?
米山 それは選挙です。ちゃんとした財政政策ができる人や党に投票する。そして選ばれた人は、選挙によって得た権威と権力によってそれを実現する、それが民主主義です。
――確かに。
夢のような言説こそ国民の敵
米山 反緊縮や積極財政派の人たちは、「自分たちこそ国民の味方。財政規律を守ろうという人は国民の敵だ」といいますけど、逆だろ! と思います。そういう甘ったるい夢のような言説を振りまくから、国民の側も分断されて、合意が難しくなる。楽な道や、魔法のようなことはないんですよ。今もし積極財政で潤ったとしても、その先の世代はどうするのかを考えたら、逆にそれは国民の敵になります。それなのに間違った言説を振りまいて、解決を先送りして、国民を分断して、合意を難しくしている方が、よっぽど国民の敵ですね。
――国が推進している投資についてはどうですか?
米山 私はあれも、ある種の政治の責任放棄であり、「甘い夢」だと思います。投資って、本来は余裕がある人が、自分の責任でやることですから。
――2022年末の株価の暴落によって、積立NISAがマイナスになった人もたくさんいます。
米山 年収300万の人に投資を薦めるなんて、それこそ詐欺に近いと思いますね。社会保障を放棄して、自己責任にすり替えている。そういう政府の経済政策の怠慢を許している一因には、反緊縮や積極財政、MMTのような「甘い夢」があると思います。だから、よっぽど「甘い夢」の方が、政府の陰謀なんじゃないかと。国民を団結させないために、お金持ちの人たちが、反緊縮の情報を流しているんじゃないかなと思った方が納得がいく(笑)。
自民党の中にも、立憲民主党の中にも、反緊縮やMMT理論を説く人が一定数います。でも、経済には夢のような一発逆転はないんですよ。昨年末のインフレと円安で、国民はだいぶショックを受けて目が覚めたと思うんです。アベノミクスは円安とインフレを誘導しましたが、世界的な状況も含めてたまたま幸運が重なって、円安とインフレが意図したほどには実現しなかった。だからその危険性に多くの人が気づかなかったけど、結局インフレと円安が加速してしまったら、生活は苦しくなるっていうことに、みんな気づいたと思うんです。
だから、まともな政治家にまともな政策をやってもらって――私自身で言えば、まずはインフレと為替を安定させることと生活保障だと思っています――立て直すしかない。そうしないと、いくら多額の国債を発行して防衛費を倍増しても、他国と戦火を交えることなく、内部から国が滅びると思いますね。
PROFILE:
米山隆一(よねやま・りゅういち)
1967年生まれ。新潟県出身。東京大学医学部卒業。独立行政法人放射線医学総合研究所、ハーバード大学附属マサチューセッツ総合病院研究員、おおかた総合法律事務所代表弁護士などを経て、2016年10月に新潟県知事就任。2021年10月、衆議院議員選挙にて新潟5区で初当選。立憲民主党所属。
Twitter @RyuichiYoneyama
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