
「学歴フィルター」があぶりだす日本の社会問題

隠しても隠さなくても炎上する!? 企業も悩む就活事情
「学歴フィルター」という言葉をご存じでしょうか? 就職活動の際に有名大学出身者だと、どこの企業もウェルカムなのに、学校名を出した途端、シャットアウトされる。そういう現象のことですね。我々凡人のタダの被害妄想というわけではなく、実際にネット上で「学校名を正直に書いたら会社説明会の定員が満員表示になったのに、東大や早稲田の名前を書いたら受け付けできた」などとして、何人かの就活生が告発したことで話題になりました。
ところでこの言葉、比較的新しいような気がしますが……。まさに、そのものズバリ、「学歴フィルター」という書名で本を書いた就職コンサルタントの福島直樹さんによると、「学歴フィルター」という言葉が最初に公になったのは、2010年頃だったといいます。つまり、リーマンショックの後から。この本でいわれている「学歴フォルター」は厳密にいうと四年制大学の中の「学校歴」差別のことですが、好景気の時にはあまり学校歴は問題にされていませんでした。なぜなら、ソニーが「学校名不問」で新卒採用をしたりして、大企業に学校名不問の新卒採用がブームになったそうなんですね。ところが、バブル崩壊、リーマンショックなどを経て、次第に昔通りの学校歴差別が復活したとか。
単純に考えればイイ学校を出た人が優遇されるのは当たり前で、受験勉強を100やった人が50やった人より有利なのは、おかしいことでもなんでもありません。むしろ、受験勉強をやっていない人が、がんばった人より優遇されるほうが不公平です。では、なぜ今、こんなに「学歴フォルター」問題が炎上するのでしょうか。
福島さんによると、実はこの「学歴フィルター」、隠しても開示しても炎上するそうなのです。実際に2011年にキヤノンが「東大」「一橋大」「早稲田大」など、学校名別に会社説明会の受け付けをしたところ、ネット上でかなり炎上しました。企業の人事担当者としては、隠せば「ズルい」といわれ、公明正大に募集しても「ヒドい」と言われる。隠したくないけれど隠さざるを得ないという事情があるといいます。現実問題として学校歴が高い人が優秀な場合も多く、企業の側の言い分にも一理あります。
福島さんは、炎上の裏にあるのは、現代の日本の「裕福な家庭に有利」な進学事情があるのではないかと指摘しています。本にも書かれているのですが、一般の子育て世帯の年収1,000万円以上は16.9%、それに対して東大生の保護者世帯の40.4%が年収1,050万円以上! そして、子供の学力と世帯収入にはハッキリと相関関係があることが、お茶の水女子大の研究などでも明らかにされているそうです。
私は個人的に私立中学の取材を4年ほど続けていますが、その実感としても、私立中から高校受験ナシで付属高校に上がって国公立コースなどで鍛えてもらうか、指定校推薦をもらうかしたほうが、国公立大・難関私大には入りやすい、と感じます。つまり、手をかけ、お金をかけて育てられた子供たちのほうが、日本では有利な学校歴を獲得しやすいんですね。「学歴フィルター」の中でも指摘されていますが、学費の安い国公立大学に、富裕層の子供が多く進学しているというのが日本の実情です。
この問題を解決するには、高等教育を無償化し、学校歴を実力主義にするしかないのではないか、と福島さんは提案しています。それは理想論としても、現在、偏差値のあまり高くない、いわゆる「低選抜大学」に在籍している人はどうすればいいのか。その突破口も、福島さんは「学歴フィルター」の中で紹介しています。
いずれにしても、「学歴フィルター」に我々がこんなにも敏感に反応するのは、やはり収入や家庭の格差が広がりつつある日本の現状を表わしている気がします。個人の努力で突破できれば言うことはないですが、不公平な格差に関しては、社会的な調整も期待したいですよね。
(文/吉田直子)
「学歴フィルター」は780円(税抜)で小学館より発売中(福島直樹著/小学館新書)
https://books.rakuten.co.jp/rb/15470388/
小学館の商品ページ:
https://www.shogakukan.co.jp/books/09825327
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