幻の庵野秀明編集本『逆襲のシャア 友の会』がまさかの復刻!
2023.02.17(金)
もともと1000部程度の同人誌だった
庵野秀明監督の最新作『シン・仮面ライダー』の全国公開日である3月18日が近づき、庵野秀明関連で今2つの事件が起きている。
1つめはカード付のシン・仮面ライダーチップスがどこも売り切れで、ネットで箱買いすらできない状況であること。
2つめは『新世紀エヴァンゲリオン』以前に出された同人誌『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 友の会』が復刻されたということだ。そもそもこの本は、企画・発行・責任編集を庵野秀明が手掛け、1993年12月30日にハッピー興業新社より刊行されたもの。押尾守、鈴木敏夫、山賀博之、井上伸一郎、そして富野由悠季へのインタビューが掲載されていたものの(寄稿もあり)、たった1000部程度の自費出版物だった。しかし、雑誌『クイック・ジャパン』の庵野秀明インタビュー記事などで、存在が語られたことで有名に。言うならば、内容は読めないのに知名度だけはある本であった。なお、本を複写したpdfがネットで出回り、倫理観に欠けるマニアはそれを読んでいたとの話も。
今回、満を持して刊行された復刻版は1月27日にamazonなどで一般販売を開始されたが、それに先駆けて、昨年12月30日~31日のコミックマーケット101の「アニメスタイル」のブースでも販売された。4Pのリーフレット「逆シャア本 友の会」がついており、現在の庵野秀明のコメントも追加。当時原稿チェックができなかった富野由悠季に、改めて原稿チェックもしてもらっているようだ。値段は3300円で、正直アホみたいに高い。しかし庵野秀明ファンは絶対に買わないといけない1冊である。
当時の評価は低かった『逆襲のシャア』
今でこそ『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988年公開)はガンダムシリーズにおける重要作のように語られるが、1993年の『逆シャア 友の会』が出る頃までは微妙な評価。同作を手掛けた富野監督もアニメファンに語られるような存在ではなくなっていたという。要は、『逆シャア』ならびに富野監督の再評価のきっかけになったのが、この『逆シャア 友の会』なのだ。
『逆襲のシャア』は『機動戦士ガンダム』から14年後の世界を描いており、2作目&3作目『機動戦士Zガンダム』『機動戦士ガンダムZZ』の続きである。ストーリーは、アムロのことがムカついて仕方がないシャアが復讐するという、タイトルまんまの内容だ。
そんな『逆襲のシャア』だが、普通の感覚だとそこまで面白くはない。「地球にはちょっと休んでもらうのさ」とシャアが地球にアクシズ(小惑星)を落とそうとするのをみんなで阻止して、結果として地球は守られたというラストにも、「え、ここで終わり!?」感は残る。他の富野監督の代表的なロボットアニメに比べたら、わかりやすくスカッとしたものではないだろう。
また『逆襲のシャア』ではアムロとシャアが大人になったということで(シャアは34歳で、アムロは29歳)、男女の色恋沙汰が露骨なのも、ずっと童貞のままであろう当時の視聴者には受けなかった要因かもしれない。恋が実りかけたキャラはぶち殺されるのが富野アニメの定番であるため、それに慣れ親しんだ童貞ファンには苦痛だった可能性もなくはない。
庵野秀明のありがたい言葉がたくさん
『逆シャア 友の会』はインタビュー本だが、随所に庵野の意見が散見される。
庵野は『逆襲のシャア』を「一人の個人が、映画、それもアニメーションという文化の中でも特殊なロボットアニメというものを使って、個人というものをあそこまで露出したものはないのでは」と評価している。つまり富野という人間がむきだしに出ているのがいいのだ。富野に対しても、「全裸で踊っている感じが出ていて、好きなんです!」と断言。さらには、押井守と宮崎駿について語っているのだが、庵野は「『紅の豚』ちょっと期待したんですけどね、どこが本音だチクショウ(笑)」と語っている。カッコつけてしまった『紅の豚』は『逆襲のシャア』にはなれなかったようだ。
また、押井守が「庵野に関して言うとまだ自分の物を作ってないと思ってるから。『ナディア』が庵野の物だっていう気があんまりしないんですよ」と、エヴァを作る前の庵野に鋭いことを言っていた。
『ナディア』は放送局のNHKの意向が大いに入っていて(『スキゾ』参照)、その他諸々と庵野を悩ませたアニメだ。『逆襲のシャア』は富野がしがらみもなく自由にやったアニメだとされるので、当時の庵野は強くシンパシーを感じたのだろう。
元『月刊Newtype』の編集長、井上伸一郎へのインタビューでも、こう語っている。
庵野 (略)自分の相補的アイデンティティを探して、もう一度何も無いところからやろうというのが、今やってる「企画」なんですけどね。
井上 新しいやつ?
庵野 ええ。だから今度はそういう意味じゃ「本物」になるはずなんですけどね。
この新しいやつというのが、まだ影も形もなかった『新世紀エヴァンゲリオン』のことだろう。エヴァの副読書としても楽しめる『逆シャア 友の会』。庵野秀明への理解を深めるためには超!超!必読である。