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裸のラリーズの思い出:ロマン優光連載198

2021.10.29(金)


ロマン優光のさよなら、くまさん

連載第198回 裸のラリーズの思い出

 編集氏から「次回は裸のラリーズでどうですか?」と言われた時に正直とまどった。長年に渡り伝説のベールに包まれていた裸のラリーズに公式HPができたこと、なにより中心人物である、いやラリーズそのものであるといっていい水谷孝の死が確定されたことというのは、ある界隈にとっては非常に大きな出来事である。しかし、一般的によく知られた存在ではもちろんなく、編集者的にヒット数が見込める存在ではないだろうし、それでいいのだろうか、彼の職業的に。もしや、ラリーズについて、さほど詳しくない、良きファンとさえいえないような自分が原稿を書くことによって、コアなファンの怒りをかうようなことを書いてしまい、炎上することを望んでいるのではないか。そう、あの人はいつも何か燃えそうなテーマを要求してくるのだから。

 まあ、この連載のテーマというのは、基本的に「編集氏が私にどう思うのか聞いてみたいことを書かせる」という感じであり、今までも「なぜ?」というテーマは色々とあったわけで、今回も聞かれたことには答えなければならない。

『フールズ・メイト』や『DOLL』を購読し、88年に久しぶりに出た阿木譲の『ロック・マガジン』やJICC出版局から刊行されていた『Indies 世界自主制作レコードカタログ』を舐めるように読んでいた地方の高校生であった私が裸のラリーズを知った時、彼らは既に伝説であった。いや、80年代後半というのは、吉祥寺にあったライブハウスOZが閉店の直後に自主製作したオムニバス『OZ Days Live』以外に音源は存在せず、水谷が渡仏しライブ活動もしばらくなくなる頃であり、ある意味もっとも伝説であった時期かもしれない。
 パンクやNWを好んでいた高校生の私にとってラリーズは雑誌などで断片的な情報だけ入ってくる存在であり、アングラの帝王であり、正直「怖い」バンドであった。当時、同じように「怖い」と感じていた一人は灰野敬二氏だ。パンク・NWの文脈以前から活動していた人、それ以降の文化の持つ「黒」とはまた違った「黒」を身にまとう人たちに、なんだか得体のしれない恐怖を感じていたのだと思う。それはハードコアパンク黎明期のバンドを暴力的なエピソードから怖いバンドと感じるのとは全然違う感覚であった。その間に位置する感じで「怖さ」を感じていたのが元・村八分の山口冨士夫(そういえば、彼は一時期ラリーズのメンバーでもあった)であったり、フールズのメンバーだったりする。
 当時の自分は、ラリーズにある意味音楽的に繋がるようなGuru GuruやAsh Ra Tempelといったドイツのバンドはテープにダビングしたアルバムを入手して聞いていたりしたのだけれど、ラリーズの音源を手に入れることはできなかった。本当に幻のような存在であった。
 上京した頃にラリーズの正規音源が出たのだけど、90年代の自分はニューキー・パイクス以降のハードコアパンクやボアダムズ周辺から出てくる新しいバンドに夢中で、そこに手をのばすことも、たまに行われるライブに足を向けることもなく、伝説は伝説のままであった。その頃の自分がラリーズの存在を感じるのは、根本敬の書いた文章だった。『夜、因果者の夜』というガロの特集のタイトルが『夜、暗殺者の夜』というラリーズの名曲のタイトルのオマージュであったことは、よく知られている話だろう。根本敬がたびたび裸のラリーズについて言及することで、自分の中のラリーズのイメージはより大きく不可解なものになっていった。

 ラリーズを実際に聴くことになったのは彼らの音源の半ブートレッグなものが大量に出回るようになった00年代以降である。自分の中でプロト・パンクという概念の重要性が大きくなり、パンク以前の名付け得ない音楽に興味が向かうようになったのも大きいだろう。伝説を体験したいというよりは、そういった観点から彼らの音に触れようとしたのだ。未だに謎なのが、基本的にブートレッグであろうこれらの音源が普通に大手のインターネット通販会社で普通に扱われていたり、デジタルミュージック化もされているという状況である。こういう不可思議なこともラリーズ的だと感じてしまう。全ての真実が遠く、厚い霧の壁の中にあるようで。

 裸のラリーズの音楽。リズム体がやっていることは基本的にはシンプルなロックンロールだ。本当に淡々とシンプルなことをやっている。そして、その上に重なる水谷のフィードバックとリバーブに包まれたギターの爆音と声。実際に聴いたラリーズの音源は想像通りの音であったし、同時に想像の先を行くものであった。想像した音が現実に現れた時に、それは想像を超えて豊かなものだった。ただ、その夜に身を委ねればいい。そういう音だ。

 高校生の頃に「怖い」と感じていた伝説の中の人物たち。自分で音楽をやるようになり、彼らを直接知る人と話すようになったり、本人を直接見ることで、そこで現実の人間としての彼らの姿を知ることになるわけだが、それが伝説を損なうようなことはなかった。灰野さんなどはその際たるもので、灰野さんのパブリックイメージとは違う姿を知るたびに灰野敬二という存在は大きくなる。灰野さんという人はアイドル性の高い非常にチャーミングな要素を持つ人で、そういう話を聞いていくことで、さらに音楽の魅力が増していったというのは自分の中にはある。90年代後半に今はなき西荻窪のスタジオ・ミスティで店員さんとダベっていたら、フールズの伊藤耕が現れて、何故かセッションをその場でやることになり、「ブラザー! いいビートだ! ブラザー!」と言われながらベースをひいていたことは本当に謎だ。90年代中盤は、これまた今はなき下北沢のすりこみ屋というバーで川田良と一緒になることがたびたびあり、末期のフリッパーズ・ギターの話をしたり(良さんは非常に誉めていた)、あの人は議論を若者にふっかけて泣かしていたりしたのだが、自分は泣かされなかったけど、物理的にひっくり返されたりした。今、住んでる町では、食事に入った店で「冨士夫ちゃんがさあ」という会話が聞こえてきたりする。かつての伝説の存在は人間としての実像を自分に感じさせる存在となった。ただ一人、水谷孝という人を除いては。
 実際にライブを見る機会もないまま、裸のラリーズは自分の中での伝説のままに終わってしまった。水谷孝は高校生の時に感じた遠く不可思議な存在のままである。これから、色々な話が出てきて人間・水谷孝の逸話が大量に出てくるかもしれない。自分としては、そういう話が出てこようと出てこまいと別にどちらでもかまわない。たとえどんなにイメージと違う話が出てこようと、それはラリーズの音楽を裏切らないだろうし、自分の中の水谷孝という人物像は豊かになるだけだろうという確信めいたものがあるし、何もわからなくても、それはそれで、それが水谷孝という人なのだなと感じ入るだけなのだろうから。最初に抱いた畏怖の念を最後まで裏切らなかったし、これからも裏切らないだろう。

(隔週金曜連載)

再発が予定されているアルバムの1つ『Mizutani / Les Rallizes Dénudés』。詳細は、裸のラリーズの公式サイトにて決定次第告知される。
https://www.lesrallizesdenudes-official.com/

★ロマン優光のソロパンクユニット プンクボイのCD「stakefinger」★
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再注目。『90年代サブカルの呪い』

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★ロマン優光、太郎次郎社エディタスのWebマガジン「Edit-us」でも連載中。気になる人は「Edit-us」で検索してみてください。

【ロマン優光:プロフィール】
ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。現在は、里咲りさに夢中とのこと。twitter:@punkuboizz

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