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社会・経済

漫画家・山本直樹はなぜ反表現規制論者に冷ややかなのか【前編】

2022.12.27(火)



1991年に『Blue』が東京都から不健全図書の指定を受け、版元回収となって以降も、一切怯むことなく過激な性表現を追求し続けてきた漫画家・山本直樹。コミック規制の中心部に立つ存在として知られている山本氏だが、ネット上などで「表現の自由戦士」と呼ばれる反表現規制論者たちへの態度は冷ややかでもある。氏の考える“表現の自由”と“性表現の有り様”とはいったい、どのようなものなのか――。【前半記事】



――『Blue』が不健全図書と指定された時のことは、とても印象深く覚えています。

山本直樹(以下、山本) 最初に東京都の不健全図書指定を受けたのは『Blue』です。次はちょっと飛んで、2008年に『堀田』の3巻。あと『分校の人たち』の2巻と3巻。20年に発売された最新刊の『田舎』もだから、『分校』の2巻目以降は『レッド』以外のすべての作品が不健全指定を受けてる。

――不健全指定を受けると、どういったことが起きるんですか。

山本 『Blue』は絶版回収廃棄だったけど、それって発禁ではないんです。最初の版元は光文社だったんだけど、「不健全指定を受けたら、回収するっていうのが、社の方針」って言われて。でも『Blue』は漫画として出来がよかったから、これは残るでしょうとは思っていた。実際、すぐに弓立社で成年指定マーク付きで出せたし。amazonから『田舎』の書影が消えたのも、それはamazonが東京都から指定を受けると、取り下げるっていうルールらしいし、結局重版もかかったし。だから、あまり辛い目にあってないんですよ、すみません。

――ご自身の作品が規制されることについて、どういうお気持ちですか?

山本 (性器を)白く塗られたり、黒く塗られたりするのは最初からそうだし。編集さんの判断でやる作業だから。『堀田』の3巻が指定を受けた時に見返したら「え! 全然塗られてないじゃん!」って思ったからね。『堀田』は編集さんの心意気のおかげでくらったっていう。エロ漫画なんて、規制と二人三脚でやるしかないんだよね。

――もちろん、生原稿では(性器が)すべて描かれてている?

山本 僕は全部描いてます。政治的使命のために描いてるわけではなく、描きたいから描いてる(笑)。

――指定を受けるか受けないかって、ある程度は予測できるものなんでしょうか。

山本 指定を受けた『分校の人たち』の2巻はわりと消しが薄いんですよ。で、3巻は完全に白く塗ったのに、これもまたくらったので、完全に目を付けられたなって。もう次あたりから、成人マークつけて消し薄めでいきましょうよっていう話を、編集さんとしています。僕は消しが薄いほうがいいんで。

――なるほど。それにしても連合赤軍事件を扱った『レッド』の後の作品が『田舎』だったのは衝撃でした。

山本 『レッド』の間に、平行して描いてたから。だって『レッド』みたいなのをやっていると、エロネタがどんどん溜まっていくんですよ。大渋滞を起こしてしまうから、それをどんどん出していってる。僕はもう死ぬまで、エロ漫画しか描かないですよ(笑)。

――性描写ももちろんですが、ヒロインのルックスがすごく幼いですよね。非実在児童ポルノや、性交同意年齢の引き上げが検討されている昨今、ものすごく挑戦的だと思ったんですけど、そういう、何かを規定しようとする流れに対しての、アンチテーゼ的なことなんでしょうか。

山本 全然ないですよ。描きたいってだけです。小柄な女の人と、大柄な男の人の組み合わせが好きなんです。それに、作中では何歳か書いていないので、ヒロインの年齢設定がいくつだと判断するかは、皆さん次第ですし。いわずとも、読者に判断を任せられるという漫画の特性をフルに活用しています。 

「表現の自由戦士」に思うこと

――そういう闘い方で切り抜けるぞ、と。ところで、もともと表現規制に反対することって、反権力的なことだと思っていたのですが、昨今の表現の自由を叫ぶ人たちは、むしろ自民党を支持していることが多い印象です。そこについてはどうお考えですか。

山本 「表現の自由を狭めようとしている自民党にすり寄るんだ~」って気持ちですよね。でも、昔からいるんですよ。オタクの中でも一定数は、左翼的なものが大嫌いです。

――山田太郎さんは、表現の自由を守るということを打ち出して、自民党から出馬して参議院議員に当選しましたが、それについて何か思うことはありますか。

山本 僕、あんまり知らないんです。一度だけSF大会でお見掛けしたけど、特にお話もしてないし。自民党の憲法改正案が出たら、それに投票するんですか? とはお聞きしたいですね。

――『ラブひな』の漫画家・赤松健さん(今夏の参院選で反表現規制を掲げて当選)はいかがでしょうか。

山本 同じです。漫画も読んだことないんだよね(笑)。でもほら、最近、おっぱいの大きい可愛い女の子の絵を献血のポスターに使って叩かれたとかあったでしょう。「そりゃ叩きたい人はいるし、街角にそんな絵を貼らなくてもいいんじゃない?」と。家で楽しめばいい。

――表現の自由戦士たちの言い分からすると、そこを一歩譲ると、どんどん狭められていく。ゾーニングだけじゃ済まなくなる、という考えですよね。

山本 勝手に敵を作って勝手に戦っている印象しかないですよ。ようするに「左翼とフェミニストが、俺たちのエロを消そうとしている!」みたいな観念でしょ。

――そうです。一方、フェミニスト側の主張としては、世の中にある女性を性的に消費するようなコンテンツによって、実際の女性や子どもが危害を加えられていると。

山本 その因果関係はわからないけど、フィクションと現実をごっちゃにするなとしか。エロ漫画を読んで、エロい気持ちになって性犯罪にはしるってことをやった人がいたとしたら、その人は現実とフィクションを混同しているし、そういうのを捕まえて「お前、漫画のせいでやったんだろう」っていうのも、現実とフィクションを混同してる。どっちもバカばっかりってことになるよね。子どもの頃から溢れかえっている漫画を読んで育って大人になった人は、現実とフィクションが違うことくらいわかってるよね。それが普通の日本人じゃないですか。

――うっすらとした男性嫌悪や性嫌悪を抱いている女性にとっては、性表現そのものが必要ないということもあるかもしれません。

山本 汚らわしいという人は、別に全然いいんじゃないですか。だってふざけた行為ですよね。人前では絶対に見せないものを、見せ合い、くっつけ合い。そんなふざけた行為で子どもができるって最高だよねって思うけども。人類も継続するって面白いじゃんって。僕らはこっちの棚でやってるから、カーテンを開けなければいいだけ。けど、表現の自由戦士は「カーテンをぶち破れ!」っていうし、もう一方は「カーテンの向こうを潰せ!」って。そんな不毛な言葉だけの議論を、ツイッター上でやってるだけなんじゃないの、と思う。

――そこに対して山本さんは、擦っているというか、挑発的なことを呟いている印象もあります。

山本 「左翼はエロを取り締まろうとしてる」みたいなバカなことを言っているツイッターを見て、時にはつい反応するわけですが。エロについての自分の自由は、とりあえず自分と自分の仲間で守るのが最初だし、世の中にはもっともっと苦しめられている自由がある。メディアが委縮して、自民党に不利なことがNHKのニュースで流れなかったりとか、そっちのほうがヤバいでしょっていう話です。関東大震災の朝鮮人虐殺を描いた短編映画を、都の施設である人権プラザで上映しようとしたら、都側が難色を示した件なんて、色々理屈をつけてはいるんだけど、要するには小池百合子への忖度ですよね。従軍慰安婦とか、南京事件とかに触れないほうがいいんじゃねぇの、みたいな「空気」が蔓延している。

――そんな状況で、表現規制についてだけ騒いでいる表現の自由戦士たちは、歪であると。

山本 そう。戦前の歴史とかが好きでよく読むんだけど、大正のエログロ大流行りの時から、数年で日本が変わっていく様子、どんどんと暗くなっていく時代の歴史は興味深いですよ。時代とともにダメなものは変わっていくんですよね。『チャタレイ夫人の恋人』がダメだったり、『四畳半襖の下張』がダメだったり。今のインターネットなんて、それでいったら禁止でしょう。だって検索したら性器が丸見えなわけだから。

――憲法が変えられるようになってしまうと、表現の自由どころではなく、そもそもの自由の根幹が変わってきてしまう?

山本 言論表現の自由と、性表現問題の自由は対なんです。攻められる時は一緒くたに攻められますからね。「表現の自由戦士」とか言われる人たちは、戦う相手を間違っているんじゃないか、ってことですよ。

【後編記事に続く】(https://bucchinews.com/society/7041.html

取材・構成/大泉りか
撮影/武馬怜子
初出:実話BUNKAタブー2023年2月号
 

PROFILE:
山本直樹(やまもと・なおき)
1960年生まれ。北海道出身。漫画家。1984年に「森山塔」名義で『ピンクハウス』よりデビュー。同年、「山本直樹」名義で『ジャストコミック』よりデビュー。1991年に『Blue』が初めて東京都青少年保護育成条例で有害コミック指定を受け、有害コミック論争の中心的存在となる。近著に『堀田』、『レッド』シリーズ、『分校の人たち』、『田舎』など。

『定本レッド 1969-1972』(太田出版)

講談社コミックス版『レッド』(全8巻)、『レッド 最後の60日 そしてあさま山荘へ』(全4巻)、『レッド 最終章 あさま山荘の10日間』(全1巻)の物語全編を収録し、新装版として全4巻で刊行予定。現在2巻まで発売中。1969年、学生運動が下火となった夏からあさま山荘事件に至るまでの革命を志した若者たちを描く。

https://books.rakuten.co.jp/rb/17365305/


 


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