エスムラルダの「勝手にワイドショー！」

第436回　想像力が欠如した椎名林檎のヘルプマークと企業のカミングアウトデー

　10月７日、ミュージシャンの椎名林檎さんが、11月30日に自身初となるリミックスアルバム『百薬の長』をリリースすると発表。ところが、その限定盤についてくる特典グッズが、どうやら「ヘルプマークに似すぎている」「赤十字マークを無断で利用している」と問題視され、炎上しているみたい。

　ヘルプマークは、義足や人工関節を使用している人、難病を抱えている人などが、援助や配慮を必要としていることを知らせるためのものであり、そっくりなグッズが出回ると、マークが正しく認識されず、緊急時に適切な処置が遅れる可能性があるそう。また、赤十字マークは、ジュネーブ条約や日本国内の赤十字法で「定められた組織以外がみだりに用いてはいけない」と定められているとのこと。

　そんなことがあった一方で、10月11日の「国際カミングアウトデー」には、「今日はカミングアウトをする日だから」と、花王が「メリットは、実はノンシリコーンシャンプー」、銀のさらが「銀のさらは、実はサンドイッチ店から始まった」、自衛隊大阪地方協力本部が「まもる（公認ゆるキャラ）は、実はほふく前進が得意」とツイートし、それぞれ炎上。日本では完全に誤解されてるけど、カミングアウトというのは「みんなが知らないことを何でもかんでも打ち明ける」なんて意味じゃないの。「Come out of the closet」を元にした言葉で、「自分の性的指向に悩み、クローゼットの中に隠れていた（クローゼットの中に、自分の本当の気持ちを隠していた）セクシュアルマイノリティが、自分の性的指向を受け入れたり他者に伝えたりする」「自分が、社会から誤解や偏見を受けている少数派の人間であることを公表する」という意味なのよ。アタシ自身、（ほとんどの人にゲイであることをオープンにしているとはいえ）、あらたまってカミングアウトするときにはいまだに緊張しドキドキするので、ノンシリコーンシャンプーだのサンドイッチだのに、安易に「カミングアウト」という言葉を使われると、あまりいい気持はしないわね。

　ヘルプマークの件もカミングアウトの件も、「メジャーな存在が、社会的弱者である当事者にとって重要なデザインや大事な言葉をよく知らずに使うことで、それを必要とする当事者に迷惑がかかったり、世間に誤解が広まったりする」という点では同じ。まあ、こうやって騒ぎになることで、ヘルプマークの存在やカミングアウトの本当の意味を知る人も増えるかもしれないけど、すでにあるデザインを参考にしたり、よく知らない言葉を使ったりする際、特に発言力・影響力のある人や企業には、もう少し慎重になってほしいわ。今はググれば、ある程度のことはわかる時代なんだから。
そして、他者が大切にしているものへの想像力とリスペクトをもつことも大事。それがあれば、炎上はある程度避けられると思うの（炎上させたいなら話は別だけど）。

＜水曜連載＞（※今回金曜更新）

【エスムラルダ情報】11月にシアターモリエールで公演される倉科遼総指揮の演劇「夜鳥 翔べ～夜を生きる～ 歌舞伎町ホスト 手塚マキ物語」にエスムラルダが出演！　詳細は主催フリーハンドの公式サイト（www.f-hand.co.jp）、各チケットサイトなどで。

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【エスムラルダ：プロフィール】

えすむらるだ…1972年生まれ。94年よりドラァグクイーンとしての活動を開始し、各種イベント、メディア等に出演。2002年、東京都の『ヘブンアーティスト』ライセンスを取得。脚本家・ライターとしても活躍している。著書に「同性パートナーシップ証明、はじまりました。」（ポット出版、共著） 
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