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芸能・エンタメ 2022.04.27(水)

映画監督森達也が見つめるコロナ禍の世界:取材・構成/姫乃たま

 

地下鉄サリン事件以降に日本社会の「集団化」が進んだと話す作家・映画監督の森達也。コロナ禍という変容した社会を、森はどう捉えているのか。姫乃たまが迫った。

※このインタビューは2021年9月に行われたものです。
取材・構成/姫乃たま 撮影/武馬怜子


 数カ月後に世界がまるで変わってしまうなんて、考えてもみなかった2019年の秋。森達也監督は最新のドキュメンタリー映画『i-新聞記者ドキュメント-』を発表したばかりでした。

 しかし冬から春にかけて出展が決まっていた映画祭の中で、会場に足を運べたのは、20年1月末にヘルシンキで開催されたドキュメンタリー映画祭のみ。
 ほかの映画祭は軒並みオンラインでの開催に切り替わってしまい、仕方ないとわかっていても森さんは残念な気持ちになっていました。
「やっぱりその瞬間、同じ場に居るか居ないかって大きくて、ノイズであったり匂いであったり、そういうものを共有できないって僕自身はストレスになりますね」
 インタビューのために訪れた喫茶店は、焼きそばのソースの匂いが漂っています。
「そういう体験の共有がなくなって、みんなが二次情報ばかりと接している状況が今後何年も続くなら、社会全体のあり方、人の意識の持ち方が変わってくるんじゃないかなって。そしてそれはどう考えてもいい方には変わらないんじゃないかって思います」
 ちょうど店員さんが盛大にコーヒーカップを落っことした音を、私と森さんはアクリル板を挟んだあっちとこっちで一緒に聞きました。
 コロナ禍にはオンラインやアクリル板越しの対面のように「覆って隠してしまったもの」もあれば、「隠されてきた矛盾を浮き彫りにした」一面もあると森さんは話します。
 たとえば無理に出社しなくても、業種によってはオンラインで仕事ができるとわかったこと。
「日本は封建的な会社システムでずっとやってきたから、コロナによって強圧的に抱えてきた因習だったり矛盾だったりから解放されて良いと思います」
 しかし一方で、コロナを理由に政治家が記者会見の席数を半分に減らすという良からぬ矛盾も起きています。それこそ記者がオンラインで参加できるようにしたり、広い会場に移動したり、対策はいくらでも思いつくのに、忖度してくれる記者だけを出席させようとするのです。
「コロナを理由に自分たちの都合のいいように制度をねじ曲げるのは、政治の世界だけでなく、いろんなところで起きています」
 しかし、そうした明らかな矛盾に対しても意見しづらいところに、日本に深く根ざす「集団化」の性質がかかわっているのです。そしてコロナによって、その性質はより加速したと森さんは感じています。

加速した日本の「集団化」

「あっ」と森さんが声をあげて、「(この記事を)読む人は初めてだと思うから、集団化の説明をしておこう」と提案してくれました。
 説明は「そもそも人類って群れる生き物ですよね?」から始まります。
 集団化とは不安や恐怖によって人々が連帯したくなることで、イワシやムクドリと同じように、弱い生き物が生き延びる術として、約500万年前に人類が身につけました。
 しかし人間は集団化が加速すると、同じ人間同士であっても、自分たちと違う性質を持っている集団を排除したくなってしまうのです。ヘイトスピーチの登場が典型的な例だと森さんは説明します。しかも排除する行為によって集団の連帯感はさらに強まり、連帯したい気持ちもますます強くなるのです。
 次第に同調圧力も強くなり、誰に言われるわけでもなく、自分自身が自分に連帯を強要するようになっていきます。過去には集団化によって繁栄してきた人類ですが、戦争や虐殺など集団化の副作用も繰り返し体験してきました。
 集団化が加速すると、人々は強い政治リーダーと指示を欲するのです。
「今朝、自民党総裁選の高市と河野と岸田に敵基地攻撃論について聞きましたみたいなのをワイドショーでやってて、3人とも肯定しててね。敵基地攻撃論ってこれ、言葉は変えてるけど先制攻撃ですよね? 5年前だったら議論にすらならなかったことを現職の政治家が口にしてるんだと思ったらびっくりしたんだけど、視聴者もコーヒーとか紅茶とかビスケット食べながら、早くやっつけろとか言ってるのかと思うと怖いね」
 しかし実はコロナが流行しはじめた当初、森さんは集団化の加速に歯止めがかかるかもしれないと期待していました。
「コロナはクラウド(群衆/人混み)を制御するじゃないですか。だから群れることにブレーキがかかるかなと思ったんですよ。でもそうではなかった。物理的に群れないからといって、集団化が止まるわけじゃないんだなって実感しました」
 むしろ加速を実感したのは、インターネット上で目にする数々の炎上や誹謗中傷が理由です。「こうした現象は日本で特に多い」そうで、炎上や誹謗中傷がほかの国より突出して激しいと言います。理由はユーザーの匿名率の高さ。たとえばツイッターの場合、欧米諸国や韓国が30~40%であるのに比べて、日本は75%のユーザーが匿名です(※総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」平成26年版より)。自分が属する集団に個人を隠してしまう日本人の性質が現れています。
 コロナ以降はインターネットの外でも、他県ナンバーの車や、営業している飲食店への嫌がらせがヒートアップしていて、「集団内のルールや正義に従わないと排除する雰囲気が強くなっていて息苦しい」と森さんは漏らします。
 もともと同調圧力の強い国で私たちは生活しています。森さんが講義をしている大学には中国や韓国からの留学生も多く、彼らからよく同じ質問を受けるそうです。
「不倫報道とか企業の謝罪会見って、不祥事を起こした人がカメラに向かって謝ってますけど、『あれって何に謝ってるんですか?』って」
 なんて答えるんですかと訊くと、「空気に謝ってるんだよ」と言って森さんは苦笑しました。
「日本には空気っていう大きな存在があるんだよって」

日本人に染み付いた穢れ意識

 日本の同調圧力の強さを、稲作を村全体でやっていた名残だと説明する人もいるそうです。しかし、韓国も中国も同じ稲作文化のため、その説は完全でないと森さんは考えています。
「一番大きいのは穢れ意識だと思いますよ。だから被差別部落の問題もいまだに続いてるし」
 日本は「天皇制の国だから。天皇って浄めのトップだからね」と森さんは言います。
「天皇制が強化されるほど、穢れ意識も強化される。まず僕は日本の天皇制のあり方と、人々の眼差しの歪さを変えるべきだと思ってるんですよ。彼らをもっと普通の目線で見つめるべきだと思う。天皇家だって人間なんだと。恋もすれば病気もするのが当たり前」
 眞子さまと小室圭さんの一連の結婚報道に関しても、イギリス皇室のスキャンダルのように同じ人間の出来事としてニュースが消費されているわけでなく、同時に揺るぎない天皇制があることに気持ち悪さを感じるそうです。
「特にメディアは普段なかなか(皇室のスキャンダルに)触れられないからさ(笑)。かたや一般人だし、みんながみんなそういう風に考えてるわけじゃないだろうけど、ここぞとばかりって感じが鼻につくな」
 眞子さまが女性だからっていうのもあるのかなあ、と森さんは考えながら呟きます。
「女系天皇を認めるかとか、女性は土俵に上がれないとか、あれも全部そもそも女性は穢れてる存在だからっていう話ですからね」
 要するに穢れ意識が拭えないんですよと森さんは言います。
「日本人ってどこかで穢れ意識が染み付いてて、なんか感染るんじゃないか、みたいなね。それで言うとコロナは実際に感染るし、日本人のメンタリティを考えると、穢れ意識って結構重要なキーワードだと思うんです」

リベラル陣営と保守派の議論

「リベラルの人が、えー、ロックダウンを主張すると……保守の人が……あー、ちゃんと説明できなくてごめんなさい」
 今回は私だけでなく、編集部からも森さんに聞きたい質問が寄せられていたのですが、自分なりに噛み砕いて説明しようとして失敗してしまいました。
 正しくは、「リベラルな立場にある人がロックダウンなど自粛の徹底を主張することに対して、保守派の人たちが『リベラルが私権制限を自ら望むとはこれいかに』とツッコミを入れたりしていますが、そのようなやりとりに関してどう思いますか」という質問で、森さんがまず私の理解度に合わせてリベラルと保守派についての考え方を教えてくれました。
「リベラルっていろんな定義があるけれど、僕は主語を大きなものにしないことだと思ってる。かたや保守は主語が『国家』であったり『我々日本人』であったりとかね。どっちかっていうと僕は『我々日本人』とかはどうでもよくて、『自分』かなあ。イデオロギーは関係ないんですよ」
 森さんはよくインターネットで「パヨク」と書かれるそうで、「マルクスもレーニンも読んだことないし、いいのかそれでって思うけどね」と笑い飛ばしていました。
 リベラルには「弱い人、小さな声で助けを求めてる人にどれだけ目を配れるか」という姿勢も含まれており、そこも保守派との違いだそうです。
 編集部からの質問は「リベラルな立場にある人がロックダウンなど自粛の徹底を主張」しているというものでしたが、弱い人に目を配るとロックダウンにはなかなか踏み切れないことは、森さんが編著した『定点観測 新型コロナウイルスと私たちの社会 2020年後半』(論創社)に書かれていました。現に自粛生活で女性の自殺率が増えていたり、ロックダウンをすると子どもや貧困層など立場の弱い人たちがしわ寄せを受けるのです。
 そのため、森さんの考えは編集部の想定と異なり、「みんなの命を助けるんだ」と保守派のように主語が大きくなれば、「ロックダウンに踏み切るんじゃないか」というものでした。
 森さん自身はロックダウンについて「効果があるならやってもいいけどね」と言いつつ、「でもほかの国の例を見たら、変異型が現れたら太刀打ちできなくなるし、結局意味ないじゃんと思ってる」と話していました。
 一部ネットでは「パヨク」と呼ばれているという森さんが、「ロックダウンは意味ない」と話すように、こうした議論については、リベラルだから保守派だからといって完全に立場と思想を二分できるわけではないと森さんは考えています。「全ての物事にはグラデーションがある」と。

「世の中は白か黒じゃないんだもん。議論は大事だけど、無理に結論を出さないことも大事だと思うんです。最近『論破』ってシンボリックな言葉があるけど嫌だなと思ってて。議論は勝ち負けとか白黒じゃないっていうのが僕の意見」
 30年以上も続いている田原総一朗さん司会の討論番組『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系列)も結論は出ませんが、視聴者がいろんなことを考えながら議論の過程を見ることが大事だと感じているそうです。
「コロナにしても、ただの風邪の側面もあるだろうし、ただの風邪じゃない側面もあるだろうから、それをどっちかに持って行こうっていうのはすごい不毛だなって思います」
 白か黒だけにするのは、いろんな色を見逃して自分の人生をつまらなくすることだと森さんは言いました。

ワクチンと東京五輪について

 森さんはたった2年で開発したワクチンを「本来は体に入れるべきじゃない」と考えています。
「でももう2回接種しました。20~30年経って、朝起きたらみんな豚になってましたみたいなことがあってもおかしくない自覚はあります。ただ重症化や誰かに感染させるリスクと天秤にかけたら、僕はワクチンのリスクを取ります。あんまりそういうこと気にしないほうなんで」
 森さんの周囲にもワクチンは打たないと明言している人たちはいるそうです。ワクチンの是非に限らず、森さん自身が情報を見極める際に何を頼りにしているか訊くと、「どっちをたくさんの人が支持してるんだろうってことですね」と意外な答えが返ってきました。常にマイノリティに目を配っている森さんが、多数決を指針にしていたのが意外だったのです。
「基本的にはね。そりゃあそうでしょ。専門家がこっちって言うならそれが正しいかなって思うけど、専門家の意見もバラけてるんであれば数が多い方を僕は優先してる」
 ただ、と強調してから「これが100人中99人が右って言ってたらおかしいと思う」と続けました。「全員が同じ方向を向いてるって気持ち悪いじゃん」。でも「60対40くらいだったら、60のほうかなと思う」そうで、「60がおかしいなと思ったら40に変えれば良いわけだしね」とのことでした。
 オリンピックにしても、同じように森さんの周囲には「1秒も見ない!」と宣言している友人もいるそうですが、森さん自身は「見ましたよ」とあっさり。
 そもそも森さんは昔からオリンピックの閉会式が「無礼講だから」大好き。アラブの選手とイスラエルの選手がハグしてたり、北朝鮮と韓国の選手が手を繋いで入場したりしていた光景が思い出されます。
 あの閉会式のように、集団を大事にしながら、あっちに行く人がいたり、こっちに行く人がいたりすれば、集団化も緩和されるのにと思います。全員が同じ方向を見て一挙手一投足まで揃えて行進するのではなく、「みんなの視点をばらけさせていい」と森さんは言います。
「僕は最初コロナで国境がなくなるって思ったんですよ。保守の人はそうは思わないだろうけど、僕は国境なんていらないと思っててね。ウイルスは特定の民族やイデオロギーを狙うわけじゃなくて世界レベルで一緒だから、国境なんてどうでもいいやってなるかなって思ったんです」
 でも甘かったと森さんは言います。大好きだった閉会式の光景も、変わってしまいました。過去に感動したようなシーンはほとんど映ることがありません。それは実際の閉会式が変わったわけではなく、「日本のテレビが変わっちゃった」からです。
「本来のオリンピックの意義として、世界の人たちをもっと見たいんだけど、試合風景も日本人選手ばっかり映すんだよね」
 それは日本社会が変わったからだと森さんは考えています。
「メディアと社会は合わせ鏡です。集団化の影響だと思うけれど、日本社会の一人ひとりが外国とか自分たちと違う人たちに対して、興味を失ってきてるんだろうなって」
 森さんはテレビでたまたまオリンピックをやっていて、悔しそうな表情の選手なんかを見かけると応援したくなると言います。それが日本人でも、どこの国の選手でも変わりません。
「とはいえ、わざわざ見ることもないと思うけどね。たまたま見て面白かったら見たらいいと思う」
 ワクチンにもオリンピックにも肩肘を張らない森さんです。

鈍さでタブーを踏み越える

 子どもの頃、遠足に行けばみんなとはぐれて迷子になり、高校生の時には大ニュースとばかりに「あいつら付き合ってる!」と同級生同士の交際をバラしては、とっくに自分以外のみんなが知ってたり……。
「ちょっと鈍いんですよ」と自身を振り返ります。
 フジテレビの深夜ドキュメンタリー枠で『放送禁止歌』を制作した時も、放送後に「お前よくあんなのやったね」と友人のディレクターたちから次々と連絡が入りました。「テレビで部落問題を正面からやるのは無理だよ」と。
 当の森さんは「うすうすタブーとは思ってたけど、あんまり深く考えてなかった」という調子でした。なぜならタブーと言っても、具体的に何が禁止なのかは決まっていないからです。
「よくタブーを踏み越える作家とか言われるけど、全然踏み越えてなくて、気づいたらなんかあったなみたいな。僕の経験則だとみんな怖がってるけど、触ってみたら全然そんなことなかったよって」
 そんな森さんの最新作は、「福田村事件」の映画になる予定です。
「関東大震災の直後、関東全域で朝鮮人がかなり殺されたんです。千葉県北部にある福田村でも15人が自警団に襲われて、妊婦や幼児を含む9人が殺されたんですよ。しかもメッタ突きだった。ところが彼らは朝鮮人じゃなくて、香川から来た行商団だったんです。でも殺された香川県もあまり問題にしなかった。なぜか。被差別部落の人たちだったんです」
 タブーが積み重なっているこの事件の映像化はなかなか叶わず、もう何十年も頭の中にあった企画がついに実現することになりました。撮影は来年、公開予定の再来年は関東大震災からちょうど100年です。 「この映画はどう考えてもスポンサーが集まらないんですよ。普通の邦画みたいにTBSだの講談社だの角川だの、まず無理でしょう。いまから告知してお金を集めようってみんなで言ってるんで、どんどん書いてください」
 というわけで、どんどん書きました。あとはコロナの影響が少しでも弱まって、撮影が順調に進むのを祈るばかりです。
[実話BUNKA超タブー2021年11月号掲載]

※森達也氏の第一回劇映画監督作品、映画「福田村事件」(仮)のクラウドファンディングがスタートしています。クラウドファンディングの支援は下記URLから!

https://a-port.asahi.com/projects/fukudamura1923/

【プロフィール】 森達也(もり・たつや)
 1956年生まれ。広島県呉市出身。オウム真理教信者たちとその周辺の日本社会を映し出すドキュメンタリー映画『A』を発表し、注目を浴びる。監督作に『A2』『FAKE』『i-新聞記者ドキュメント-』など。著書多数。コロナ禍の社会に関しては、複数の論者による『定点観測 新型コロナウイルスと私たちの社会』シリーズ(論創社)の編著を務めている。

社会問題等を扱うことから、記事中の表現は初出掲載時に準じました。また幅広く配信するためエンタメカテゴリに組み入れております。ご容赦ください。
※雑誌「実話BUNKA超タブー」は毎月2日発売です。バックナンバーは一部電子書籍の読み放題サイト等でもごらんいただけます。


 


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