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芸能・エンタメ 2020.07.11(土)

フリー素材が“巨乳”で炎上した茜さやが語る“胸のこと”“グラビア業界のこと”“炎上騒動のこと” インタビューアー/姫乃たま

 

写真向かって右が茜さやさん
写真向かって右が茜さやさん。向かって左はインタビューアー・姫乃たま

 1月中旬のとある朝、茜さやさんがツイッターを開くと、きつい口調のリプライがいきなりいくつも目に飛び込んできました。なにやらツイッター上で自分のことが話題になっているようです。心当たりがないので、寝起きでぼんやりしている頭がさらに混乱しました。
 茜さんはフリーランスで活動している現役のグラビアアイドル。2014年のミスヤングチャンピオンオーディションでファイナリストに選ばれてグラビアデビューしました。
 もともと芸能活動にも興味を持って上京した茜さんが、グラビアのオーディションに応募したのは、これまで悩みの種でもあったGカップの胸を仕事に活かしたいと思ったからです。
 それまで同級生と同じようだった胸が、急速に膨らみ始めたのは小学高中学年の頃。
「恥ずかしかったです。着たい服も着れないし、いまよりぽっちゃりしてたから目立って、からかわれることもありました」
 特に嫌だったのが体育の着替えの時間です。まだスポブラを着けていないクラスメイトもいるのに、ブラジャーをしている自分が恥ずかしく思えました。きついブラジャーを着けて、無理やり胸を押さえつけていた時期もあります。

「男性と話してるとチラチラ見てるのがわかるんですよ」
 いまは明るく話してくれる茜さんですが、以前は自分という人間ではなく、男性が自分の胸と話しているようで思い悩むこともあったそうです。
 普通にしているだけなのに目立ってしまう苦痛。自分を押さえつけなければ普通になれない苦痛。
 グラビアアイドルになって、悩みを仕事に活かせたはずが、その朝、思春期の苦痛を蒸し返されるような炎上に巻き込まれたのです。
 事の発端は、転職支援サービスのサイト「チェンジョブ」が、昨年9月にツイートした転職希望者の募集でした。そのツイートに使われたイメージ画像が、茜さんの写真だったのです。
 グラビアの水着写真ではなく、私服姿でノートパソコンを開き、ケータイを耳に当てているイメージ写真でしたが、当該のツイートには転職に関する内容ではなく、「おっぱいおっぱい」のような茜さんの容姿に対するリプライがたくさん送られていました。
 そうした性的なリプライを見るのが苦痛だと言う人が現れて火がつき、次第に当該のツイートを放置している企業を批判する人が現れ、ヒートアップして茜さんのアカウントに直接苦言を呈してくる人たちが現れました。
 使用された写真は、商業利用可能な写真素材を無料で配布するサイト「PAKUTASO」に掲載されているフリー素材でした。業界初のグラビアアイドルのフリー素材という仕事で2016年に撮影されたもの。
 茜さんの写真が炎上の種になっていたのです。
 リプライの中には、「手術で胸を小さくすることもできるのに、そうしないのは性を売りにしている」という旨の批判まであって、愕然とさせられました。
「えっ、メスを入れさせるの……? と思って固まっちゃいました。生まれ持った特徴じゃないですか。あなたは性的だと思ったかもしれないけど、本人たちにとっては生まれ持った形だから、それを切り取れって言うのはよくわからないです……」
 こうした激しいリプライを送ってくる人たちには、「フェミニスト」を名乗っている女性も多く、さらに彼女たちの意見に反対する人たちも現れ、議論は加速。
 当の茜さんは巻き込まれたまま、茜さんとフェミニストとの対立構造をつくりだす人まで現れて、混乱を極めました。
 知らない人たちが自分のフリー素材を議題に喧嘩を始めて、時々ヒートアップした人から理不尽なリプライが飛んでくるという収拾のつかない状態に。
「胸になんか詰めてるわけでもないですし、私服で普段生きてる状態を撮られただけなのに、こんなことになってしまって。ほかの企業ももうこの人のフリー素材は使わないでおこうってなるじゃないですか」
 発端となった転職支援サイトのツイートは現在削除されています。
 茜さんの容姿に対する性的なリプライを目にしたくない(排除したい)感情から火がついたこの騒動。女性を守りたい気持ちから始まったはずの議論が、茜さんが活躍する場を奪ってしまったのです。

写真向かって右が茜さやさん

同じ世界の女の子を守りたい

 ただでさえ不安の多い業界に生きるアイドルたちが、少しでも安心して働けるお店をつくりたい。茜さんがそう思い始めたのは3年ほど前のことです。
「グラビアアイドルになって“いろんなもの”を見てきて、ああ、こんな世界なんだって思って」
 彼女の言う「いろんなもの」には、枕営業やギャラ飲み、パパ活など、周囲のグラビアアイドルたちが、男性から女性の部分を買われて搾取される業界の実態が凝縮されていました。
 アイドルの女の子が積極的にガツガツ楽しんでいれば円満ですが、みんながそういうわけではありません。ほとんどの女性が金銭的な不自由や、グラビアの仕事をしたい気持ちを利用されて、搾取されたり騙されたり、精神的に削られていました。  茜さんは以前から、女の子たちを守るために、ツイッターで積極的に疑問に思った出来事や、注意喚起のツイートをしていました。それを目にしたグラビアアイドルの子たちから、次々と相談のメッセージが届きます。ギャラの未払いや、望んでいない過度な露出の撮影。事務所の人が怖くて、契約書すらもらえていない子もいました。業界を改善したくて、目の前の女の子を守りたくて、話を聞けば聞くほど、また新たな闇が見えてきます。
「強制的にやらされてる子の中には若い女の子もいるので、なんとかしてあげたい。業界の環境を変えたいと思いました」
 そして去年の2月、茜さんは都内にアイドルが働く飲食店をオープンしました。
 茜さんが経営していて、従業員もアイドル同士なので、芸能の仕事が入った時も理解が得られやすく、お客さんも応援したい人たちなので、アルバイト中にもファンができて芸能活動もスムーズになります。
 店の売上もなるべく働いている女の子たちに還元したいという思いから、利益的なメリットはそこまで大きくないそうですが、それよりも気持ちの面で経営している部分が大きいと話します。今働いてくれているライブアイドルの子たちも、日々のライブのみで食べていくのは厳しいので、安心して働ける場になっています。
 事務所のしがらみがないフリーランスだからこそ自由に発言して活動できる茜さんですが、つまりそれはいざという時、会社に守ってもらえないということでもあります。
 業界の怖さを知っているにもかかわらず、めげずに立ち向かっていく茜さん。怖い経験も、嫌な思いも、くぐり抜けて「勉強になった」で済ませるタフさがあります。
「もし自分が潰れちゃったらやらなきゃよかったって思うんですけど、自分をしっかり持って崩れなければマイナスの体験も大丈夫って思ってます」
 どうして諦めないのか。そう聞くと、茜さんは「なんでかわかんない」と言いました。
「でも、自分も騙されそうになったことがあるし、田舎から出てきてるんで、夢を持って東京に出てきた人が傷つくのってなんだろうって思っちゃう。母性みたいな感じです」
 自分と同じ世界で生きているグラビアアイドルの女の子たちを守りたい。
 目の前で悩んでいるグラビアアイドルのために活動してきた彼女だからこそ、同じく女性を守ろうとしているはずの人たちに今回仕事を奪われたのが胸に引っかかりました。
「攻撃的なリプライってだいたい間違いを正そうとしてくださってるんですけど、その間違いだと思ってることが、ほかの人にとっては間違いじゃないかもって少し考えてほしいです。正義を振りかざさないでほしい。その振りかざした正義って、もう武器じゃないですか。攻撃じゃなくて、あなたはあなた、私は私って気持ちを持ってほしい。価値観を狭めて敵を排除していくんじゃなくて、心を開いて受け入れる母のような心を持ってほしいです」
 苦しみは同じでも、解決する方法は人それぞれです。考えが違う人も、抱えている苦しみは同じかもしれません。
 ツイッターで誰でも意思表示ができるいま、敵や味方ではなく、認めることも認めないこともせず、そっとしておく関係性の選択肢も重要になっているようです。

フェミニストという肩書き

 茜さんは炎上の渦中で置いてけぼりでした。
 性的な搾取や被害を減らしたい。目的は同じはずの人たちが、自分の写真を巡って殺伐とした言い合いを繰り広げています。
 でも議論に参加している人のほとんどは、きちんと茜さんを見ていませんでした。茜さん本人ではなく、彼女が持つ「グラビアアイドル」「巨乳」のような記号に対して意見しています。
 それは皮肉にも、かつて茜さんが自身の胸について悩んだ時と、同じ苦しみを生み出しているのです。
「フェミニストを名乗ってリプライしてきた人は、フェミニストって言葉が自分自身になってるのかな。その感覚がわからないんです。バトルに使うためのものじゃなくて、自分の人生に大事だと思ったから取り入れて、人生の材料にしてきたものじゃないですか。肩書きにとらわれないで、目の前の人に優しくしてほしいです。胸が大きくて性的に見られるんですって人の相談に乗ってくれたらいいのにって思います。でも、そんな中でも今回たくさんの方々が優しくフォローして下さって、騒動で傷ついたけれど優しさもあふれているんだなと知れた機会でもありました」
 茜さんは自分の考えを完璧じゃないと、常に思っているそうです。だからこそ、排除せずにできるだけ受け入れたいと思っています。本当によくわからなくても、せめてむやみに傷つけない。
「多様化を受け入れるってことは、違う人の意見も受け入れるってことですよね。全員に主張する権利があるとは思うんですけど、体が違うのなんか当たり前で、ほかの人の違う意見っていくらでもあって、それに食ってかかるのって多様性じゃないと思うんですよ。なんとか主義とかじゃなく、それぞれが認めて助け合っていければいいなって思ってます」
 やっぱり自分の目の前にいる人に、それぞれに合った方法で優しくしたい。思いがけない騒動が、茜さんのグラビアアイドルを守りたい気持ちにつながっていました。

【茜さやさんプロフィール】
茜さや(あかね・さや)
1993年5月20日生まれ。グラビアアイドル、タレント。ミスヤングチャンピオンファイナリスト、ライブクイーンコンテストグランプリ、ミスヴィレバン、ミスiD吉田豪賞などを受賞。ぱくたそにてフリー素材も提供。2019年、女の子たちが安心して働けるコンセプトカフェバーを開業。

【姫乃たまさんプロフィール】
姫乃たま(ひめの・たま)
1993年2月12日生まれ。10年間の地下アイドル活動を経て、2019年にメジャーデビュー。同年4月に地下アイドルの看板を下ろし、文筆業を中心にトークイベントに出演。著書に『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)『職業としての地下アイドル』(朝日新聞出版)など。

記事初出:「実話BUNKAタブー」2020年4月号
取材・構成:姫乃たま
「実話BUNKAタブー」
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