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芸能・エンタメ 2016.07.21(木)

ディズニー王国事始め~『白雪姫』がすべてを変えた(3) 前代未聞の画期的な作品『白雪姫』:高橋ヨシキ連載6

 


あの映画に隠された、禁断の魅力とは? 現代の「神話」の深淵に迫る!

高橋ヨシキのディズニー大好き!
第6回 ディズニー王国事始め~『白雪姫』がすべてを変えた(3)前代未聞の画期的な作品『白雪姫』

文・高橋ヨシキ

引き続き『白雪姫』評をお届け! 
第一回目・第二回目はこちらから。

(1) http://bucchinews.com/geinou/5799.html
(2)
http://bucchinews.com/geinou/5806.html

平面の絵に奥行きを与えるイリュージョン

前回も書いたとおり、『白雪姫』に至るまでの間に、ディズニーはサウンド、カラー、そしてロトスコープやマルチプレーンカメラといったもろもろの技術を『シリー・シンフォニー』を始めとする短編映画で実験を繰り返すことで進歩させてきました。このうち、マルチプレーンカメラについて「カメラの前にセル画や背景を重層的に置いて位置を変えることで、「手前と奥」の立体感を出すことを可能にした」と書いたのですが、これでは言葉足らずなのでもう少しご説明したいと思います。

マルチプレーンカメラについては、ディズニーが1957年にその仕組を説明したフィルムがあるので、それをご覧いただくとわかりやすいのですが、この動画は7分半もあるので、時間のない方は3分23秒のあたりから、4分11秒ぐらいだけでも観てみてください。

・Walt Disney's MultiPlane Camera
https://www.youtube.com/watch?v=YdHTlUGN1zw

(本当は全部観ていただきたいところです。もし少し時間に余裕があったら、それこそ3分23秒あたりから初めてもよいので、そこから最後までご覧いただければ幸いです)

『風車小屋のシンフォニー』(37年)で使用され、また『白雪姫』でも使用されたマルチプレーンカメラの実物は、サンフランシスコのプレシディオにある「ディズニー・ファミリー・ミュージアム」に保存されていて、誰でも見ることができます。

・Walt Disney Family Museum
http://land.allears.net/blogs/jackspence/2014/02/walt_disney_family_museum_1.html
(このページの真中あたりにある、レンガの壁の前に置いてある枠組みのようなものが、そのマルチプレーンカメラです)

ぼくは一昨年、「ディズニー・ファミリー・ミュージアム」に立ち寄る機会があり、そのときにこの歴史的なマルチプレーンカメラの実物を間近で見て感動しました。そのときに撮った写真があるのでアップしておきます。

http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/satan666/20160721/20160721093529.jpg?1469061353

http://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/s/satan666/20160721/20160721093530.jpg?1469061344

このマルチプレーンカメラが画期的なのは、さきほどの動画でもわかるように、背景や前景、セル画を何層にも重ねることで「視差による奥行きの感覚」を得られることのみならず、それぞれの層(に置かれた絵)や、またカメラ自体も水平軸に沿って自在に動かせることにあります。どういうことかというと、いろいろなものが「立体的、重層的に」見えるだけではなく、その中のキャラクターなり部分なりにカメラが「寄ったり」、またあたかもキャラクターを「カメラが追っている」かのような錯覚をも生み出せるのです。『白雪姫』が森の中に逃げ込んで行く場面では、このようなマルチプレーンカメラの持つ力が最大限に発揮されています。

・『白雪姫』が森の中に迷い込む場面
https://www.youtube.com/watch?v=y2zrs7Irzuw

この場面では、あたかもカメラが縦横無尽に「動いて」、生きて動いている白雪姫を「追って」いるかのような、驚くべきリアリティを持つイリュージョンが実現されています。

白雪姫はアニメーションの敗北か?

ところが、発表された当時、こうした立体的でリアリスティックな『白雪姫』のようなアニメーションのあり方を、批判的にとらえた見方もありました。「(アニメーションは)いつもの引力の法則や常識や実現性云々にも縛られない。アニメーションはこの世で唯一、真に『自由な』芸術表現の手段なのだ」(クレートン・ピート)や、「アニメーションのユニークさは、制約でがんじがらめの現実からほぼ完全に解き放たれて『ファンタジーの論理』で動く、ただひとつの映画形式だということにある」(ウィリアム・コズレンコ/どちらもJ・P・ロッテ著『ディズニーを支えた技術』日経BP社より引用)。こういう、ある意味「アニメーション原理主義的」なものの見方からすると、ディズニーの『白雪姫』が示したような「リアリティ」は、アニメーションの敗北を意味したのです。いくらでも自由に、なんでもできるはずのメディアを使って、実写の真似事をしているのは、自らの可能性を狭める行為だというのです。

現在ではもちろん、こういうことを言う人はあまりいませんよね。アニメーションはきわめて「リアル」に事物を描くこともできれば、また自在に想像力を羽ばたかせることもできる、マルチなメディアだということはみんな分かっています。もちろん作家やプロダクションによってどこに重心を置くか、アニメーション表現において何を最も重要視するか、ということに違いはありますが、「現実あるいは現実を写しとったフィルムを模倣しているからけしからん」という意見を目にすることはほとんどないと言っていいでしょう。

しかし『白雪姫』が誕生した当時は、まだそういうものの見方も存在しました。これは、ありとあらゆる革新的な表現や映像について言えることですが、「そういう表現」が一般化し、市民権を獲得した後で、エポック・メイキングな作品がなぜ発表された当時そこまでエポック・メイキングなもの足り得たのかを知ることは難しい。卑近な例でいえば、多くの若い世代の人にとって『スター・ウォーズ』の1作目(77年)は、古臭く野暮ったい作品に見えるといいます。ルーカスはそれを嫌って「特別編」など数回に渡って映像を手直ししし、また「オリジナル版」をなるべく流通させないよう心を砕いてきたのですが(これはこれで、映画史を考える上では実に迷惑な話でもあります)、そういう若い人たちに、ぼくなどが『スター・ウォーズ』で受けた衝撃をうまく伝えるのは至難の業です。「だって今の目から見たら全然ちゃちいもん」と言われたらグウの音も出なくなってします。

『白雪姫』も同様です。「長編アニメーション映画」というものが空気のように存在し、また3DCGアニメーションがそれこそフォトリアリスティックなまでの質感と奥行き、臨場感を与えてくれる現在、『白雪姫』の映像がどれほど驚愕に値するものだったか、その圧倒的な衝撃を伝えるのはますます困難になっています(同じことは、古いホラー映画などについてもいえます。1930年代に『ドラキュラ』や『フランケンシュタイン』が上映されたときには、恐怖のあまり劇場で失神する人まで出たのですが、今ではなかなか信じてもらえません)。

当時、マルチプレーンカメラやロトスコープといった技術を使っていたのは、もちろんディズニーだけではありません。フライシャー兄弟もそうした技術をおおいに活用していますし(とくにロトスコープはフライシャー社のトレードマークと言ってもいいほどです)、また、アニメーションの背景を立体のミニチュアにしてみたり、実写映像とアニメーションを組み合わせるなど、多くの実験がディズニー以外でも繰り返されていました。

『白雪姫』は、そういう技術の集大成として登場したのですが、他の実写作品の添え物ではない「長編映画」として独立した「本編」だったことの重要性は強調してもしすぎるということはないでしょう。事実、製作当時『白雪姫』の試みは「無茶な野望」で、「おそらく失敗に終わる」との下馬評も多くありました。「アニメーションをそんなに長時間見続けたら、目が疲れてしまう」「1時間以上もスラップスティック的なギャグが続くだけのようなアニメーションを観に行きたがる観客などいない」といった言説がまことしやかに囁かれました。

もちろん、このような邪推や意地悪な物言いは『白雪姫』が完成し、驚異的な大ヒットを飛ばしたことで一掃されたわけですが、逆にいえば『白雪姫』がいかに前代未聞の試みだったか、ということをこうした事前の評判が裏付けているとみることもできます。それほど、『白雪姫』は前代未聞の画期的な作品だったのです。

(つづく)

画像:The 1937 multiplane camera developed by Walt Disney Studios/A multiplane camera built in 1937 for Walt Disney's first animated feature film,Snow White and the Seven Dwarfs. (Wikipedia[Original(Flickr):Multiplane camera/photo by HarshLight])(CC-BY2.0)

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映画ライター、デザイナー、悪魔主義者。雑誌『映画秘宝』にアートディレクター、ライターとして参加する傍ら、テレビ、ラジオでも活躍中。NHKラジオ第1放送で『すっぴん!』にて毎週金曜日「高橋ヨシキのシネマストリップ」を担当。近著に「暗黒映画評論 続悪魔が憐れむ歌」。

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