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サブカルチャー 2016.04.16(土)

北条かやとは何なのか:ロマン優光連載55


ロマン優光のさよなら、くまさん

連載第55回 北条かやとは何なのか

『こじらせ女子の日常』というのは奇妙な構造の本で、「こじらせ女子」であるところの北条かやが女性に密接な関係があると思われる様々な事象について考察を加えていくという内容なのだが、北条かやが何をもって「こじらせ女子」なのか、「こじらせ女子」とは何であるのか、本文中で明確に語られることは一切ない。「みなさんご存知の!」といった感じで「こじらせ女子」という概念が既に周知されている前提になっており、雨宮まみのこの分野における功績が語られることも特にないかわりに北条かやが編み出した新しい概念という記述も特にない。というか、この本は過去の原稿に加筆修正をおこなったものを中心にまとめられたもので、そもそも「こじらせ女子」について言及していこうという主旨のもとに書かれたものではなく、要するにタイトルだけで便乗してるだけの本ではないだろうか。こういういいかげんな便乗の仕方をすることは、実体のある著述家として活動していくつもりの人物の本のタイトルとしては本人にとってそうとうリスキーであり、編集者の見識に疑問が生じる。本来、内容的には関係性が薄い本に「こじらせ女子」という冠を被せた結果、「こじらせ女子代表・北条かやが社会の色々なことを語る」という、かなり悪質な便乗本になってしまったわけだ。
 こういう「便乗本」を出すなら、「便乗本でーす」とおちゃらけるなり、「先達の影響化で」と真面目ぶるなりして、あくまで自分は後から乗っかったことを 明確にすることが反感を軽減するためには重要なのだが、北条氏はそういう行動にでることはなく、イベントで「こじらせ女子」の定義を語るという行動に出たわけだが、それはとんでもない悪手であったのではないだろうか。雨宮氏が提唱した「こじらせ女子」というのは「様々な要因で社会の中で女性としてのアイデンティティが揺らいでいる女性の総称」ぐらいのもので、そのサンプルとして自己の体験を大幅にフィーチャーしたのが『女子をこじらせて』であり、ミソジニーに流れがちな「童貞をこじらせる」という既成の概念に対する女性からのカウンターの側面を持つものだったと自分は認識している。広範囲を示すものだから、北条氏が「こじらせ女子」を名乗っても別にいけないことではないのだが、勝手に代表面して定義を始めるというのは何か違う話だろうと思われても仕方がない。北条氏本人が望んで代表になろうとしたわけでも、代表として定義付けしたかったわけでもなく、編集者の要望やイベントでの要望に近視眼的に応えただけなのだろうが、物を書く人間としてそのことの意味を考えずに乗っかることは物書きとしての資質に疑問を抱かざるを得ない。クライアントの要望に応えるというのは職業意識の高さの表れかもしれないが、そういう要請されるがままに乗っかってしまうだけの応え方はタレントのやり方で物書きのやり方ではない。「私、便乗してまーす」とおちゃらけたり、「我こそはこじらせ女子界の革命児なり!」と大きくでるような開き直った強い姿勢があれば、また反感の形も変わってきたかもしれない。
 実際の原稿については、好みや想定される対象ユーザーの問題があるので一概には言えないが、個人的な感想で言えば、特に突出した部分は感じられず、全般的に浅めの考察が展開されている感じだ。「ヲタク=非モテ」のような対象に対するリサーチが足りない論外なものもあるが、基本的には「特に間違ってはないが、目新しい部分はない」ものがほとんど。ここからさらに分析していくと面白くなるのにというところで分析をやめてしまっている、言うならば本題の入口にたった時点で話が終わってしまう。ある章で北条氏はお金持ちは嫉妬されやすいと記述している。これは間違ってはないが、正しくもない。お金を持っていることは嫉妬の対象にもなるが、羨望の対象でもあり、賞賛の対象にもなる。どのような金持ちが、どのようなシチュエーションで、どのような人に嫉妬されるか、悪く言われるのは嫉妬だけが原因なのか、まで考えて書かないと深みも面白みもでないのではないだろうか? これは一例であるが全体的に思いつきレベルで終わってる文章が多い。
 切り口の面白さだけが文章の魅力ではない。語り口の面白さというものがあれば、十分面白いものが書くことができる。そういった面から見てみると北条氏の文章は簡潔でわかりやすい美しい文章を目指してるのだろうが、削りすぎなのか文章の繋ぎがあまりうまくなく、リズム感やテンポもあまりいい風には思えない。時々挿入される、砕けた口調の諧謔パートも狙った効果がでているのかどうか私にはわからない。ただ、現時点では文章が上手いとは言えないのは確かだろう。
 ただ、この本の中で群を抜いて面白い章がある。ばびろんまつこについて触れた章だ。ここでの北条氏の文章は本当に生き生きしている。人が物を書くときに熱が入るのは、嫌いなものの話か、自分の好きなもの=自分の話と相場が決まっている。そして、ここでの北条氏のばびろんまつこを分析した言葉は勿論後者であり、自分の内的問題を意識的にか無意識だかはわからないが、ばびろんまつこに仮託して物語っているのではないだろうか。一読に値するパートだと思う。

弱さアピールから浮き出る人間性

 物書きとして考えるなら、現状の北条氏は胆力も分析力も文章力も一定のレベルに達していない。お前のような無名の者が言うなという声も当然あるだろうが、私ぐらいの知名度、評価、文章力の人間にも指摘できるぐらいのレベルでしかないということだとも言える。氏の現状は、ある種の男性の好みのド真ん中である氏のルックスと氏のわかりやすい経歴によるタレントとしてのニーズに支えられたものであることは本人も理解しているだろう。それはそれで一つのあり方なのだから開き直って頑張ればいいのにそういうわけでもない。嫌われたくないからだろうと思う。北条氏は基本的にチヤホヤされたい人だと思う。無限の賞賛と共感を求めてしまう人だ。チヤホヤされるためには人前に出なければならない。氏は同時に誰からも嫌われたくない人だと思う。彼女の中に人に嫌われるなんてほんとありえないことなのだろう。何が何でもあらゆる手段で自分に対する批判を封じこめようとする。正当な批判に対しても、あの人が言いたいのは反論ではなく結局は「私を責めないで」ということでしかないのだから、対話しても本当に話にならないのだ。しかし、何事も賛否両論が生まれてくるのは仕方ないことなのだから、どんなに頑張って批判を封じこめようとしても無駄なことだと思う。チヤホヤされるためには人前に出なければならないし、嫌われたくなければ我を引っ込めていくしかない。チヤホヤされたい欲望と嫌われたくないという欲望は似ているようで相反する欲望だ。どちらかを捨てない限り、心の平穏は訪れない。だから、本当に気の毒な人だなとは思う。氏は「自分の弱さがいけない」というようなことを言う。しかし、ほんとにいけないのは弱さゆえに流されてしまうことではなく、弱さを世間にアピールすることで批判や追求から逃れようという弱さゆえの姑息さだ。もし、それが何らかの精神的疾患によるものならばインターネットから離れて治療に専念すべきだろうし、本人の変えられない資質だと言うなら、noteではいくら価格をあげても氏の言うところのアンチ(単に面白案件としてヲチしてる人とも言う。)が買う不安は残ると思うので、mixiに執筆の場を移しマイミク相手に頑張るのがいいのではないだろうか。
 北条氏のような自己愛の強すぎる人は分析したり研究したりより創作の方が向いていると思う。短歌とかある意味本人らしくて面白いし。自分自身をテーマに赤裸々に書けば面白い作品が生まれる可能性が高く、批判も当然増えるだろうが、賞賛の声が大幅に上まわれば、現状を一発でひっくり返すこともあるだろう。しかし、嫌われることが嫌いな氏がそこに足を踏み入れる可能性はかなり低いだろう。黒子から伸びた毛を守るために自分の腸を引っこ抜いて振り回してみせて相手を威嚇するみたいな行動を繰り返している現状よりはよほどいいとは思うのだが。

<隔週金曜連載> ※都合により土曜公開いたしました。

おすすめ書籍:『こじらせ女子の日常』北条かや(宝島社)
http://books.rakuten.co.jp/rb/13606914/

【ロマン優光:プロフィール】

ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。少女閣下のインターナショナルの里咲りさに夢中らしい。

おすすめ書籍:「日本人の99.9%はバカ」/ロマン優光(コア新書)
http://books.rakuten.co.jp/rb/13104590/

おすすめCD:『蠅の王、ソドムの市、その他全て』/PUNKUBOI(Less Than TV)
http://books.rakuten.co.jp/rb/13292302/

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