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サブカルチャー

百田尚樹『日本国紀』よんでみた:ロマン優光連載122

2018.11.16(金)


ロマン優光のさよなら、くまさん

連載第122回 百田尚樹『日本国紀』よんでみた

 やはり、百田さんという人は凄い人だ。
 セミリタイアした特に歴史についての素養のない初老のおじさんが急に日本の歴史に興味をおぼえ、ネット上の歴史読み物サイトやWikipedia、駅やコンビニで売ってるような軽い歴史雑学本、本職の歴史学者でない人の怪しげな新説本や売れることを狙った意図的な奇説本、及びにそれらに影響された個人blogを参考に、特にオリジナリティのない、孫引き・ひ孫引きの「僕の考えた日本の歴史」をblogに書き連ね、そこで勝手な思い込みで薄い妄想を垂れ流していたところで特に害もないかもしれない。そんな文章量だけ多い、目新しい情報も深い考察も斬新な視点も存在しない内容的にはどうでもいいものに興味を持つ人間など殆どいないだろうし、影響力を持つなんてこともないだろう。
 しかし、百田さんが同じようなことをするとなると、書籍化された上に、日本の通史の決定版であるかのように喧伝されてベストセラーになるわけで、全くもって百田さんというのは凄い人だ。読む前からありがたがってる人すらいるわけで、百田さんの尊さはもはや我々の想像を遥かに超えているといっても過言ではないだろう。

 通史の決定版といいつつ、この本には参考文献、参考論文といったものの記載がなく、資料の取り扱いにも疑問が残り、正式な歴史書と到底言えるものでなく、実際のところ文芸書扱いであるということは各所で既に指摘されている通り。実際のところ、歴史読物というのが正解だろう。しかし、歴史読物としても過去の偉大な作家の作品、例えば坂口安吾のそれと比べれば、薄い情報の羅列がメインで自身の見解が披露される箇所も少い上に、見解自体の独自性も薄く、「こうだったらいいのになあ。」的な願望や単なる感想が述べられているだけなので、読物としての面白味に欠けるきらいがある。
 歴史書としても、読物としても中途半端になってしまい面白味に欠けてしまうのであれば、いっそ、司馬遼太郎のように司馬史観ならぬ百田史観に基づく歴史小説を書いて人々を夢中にさせ、日本人の歴史観を変えてしまうぐらいの影響を与える方向を目指せばよかったのではないだろうか。それができるならではあるが。

 面白味には欠けるが奇妙な本である。幕末以降に関しては、いつもの百田節ともいうべき、ネット上に蔓延している平凡な歴史修正主義的な『ネトウヨ』と揶揄されそうな歴史観が披露されている。本当にいつものあれであって、テンプレをそのまま貼り付けた感じであり、これだったら市井の保守・右翼論客の中に、より扇情的で説得力のあるものが書ける人間もいることだろう。他人の意見をなぞってるだけの百田氏に対して怒る保守・右翼論客が多数現れないのが不思議でならない。
 それに対して、前半の古代~江戸時代にかけてのパートは、あちこちから摘まんできたような説が未整理に並べられているような印象を受ける。「 神話とともに誕生し、万世一系の天皇を中心に、 独自の発展を遂げてきた、私たちの国・日本。」という売り文句で売られているのにも関わらず、百田氏はいきなり王朝交代説をとなえる。定番の継体天皇だけではなく、応神天皇の際に王朝交代があったという説に対しても説得力があると考えているようなので、二度王朝が交代した可能性が高いという説を持っているということになる。万世一系の天皇家という話はどこにいったのだろう?
  日本では古来から万世一系という概念を尊んでいたため、継体天皇も応神天皇の子孫を名乗らざるを得なかったという見解を示しているわけだが、なぜ日本では万世一系という概念を古来から尊んできたのか、なぜ万世一系という概念を尊ぶことが素晴らしいことなのかについては、ちゃんとした論が書かれているわけではない。ここのところが本来であれば重大になるはずなのだが、ぼんやりとしたままである。天皇と日本の関係性について真摯に考えているとは、とうてい思えない。なんというか、単純に勉強不足なのであろう。ちゃんとしてほしい。
 百田氏の政治的発言、歴史に対する発言というのは、根底に強固な思想があるというよりは、人付き合いやビジネスの中でのポジション・トークであったり、単純に「ウケるから」といったものから発生している節がある。過剰に差別的な発言や、大げさなデマといったものも、あれはウケるから言ってるだけなのではないだろうか? 根底に思想がないから、雑に天皇を扱ってしまったり、「こっちの方が面白い」という理由でリベラル的な史観に基づくともいえる説を採用してしまうのではないか。そもそも、保守もリベラルも右翼も左翼もちゃんと認識できてない、真摯に考察し定義付けるような作業をしたことがないのではないか。百田氏にあるのは思想ではなく、テレビ人として培われてきた「ウケればいい」という発想と、「日本・日本人最高」という気分だけなのではないかという疑念が浮かんでくる。
 結局、前半部はそんな感じでぼんやりとしており、宣伝文の煽りとは対称的に天皇と日本の関係性について特に掘り下げることもなく、ウケがよさそうな諸説、自分にとって気分のいい諸説を並べていくだけである。

まるで『殉愛』みたいですね

 百田氏によれば日本の歴史には大虐殺や宗教による争い、奴隷制度は存在しないというが、客観的に見てそうなのだろうか?
 鎌倉時代に乱発された族滅。弘安の役の際の取り残された元兵の末路。なでぎり。薩摩藩の琉球出兵。松前藩のアイヌ支配。一向一揆。キリシタン弾圧。不受不施派弾圧。おじろく・おばさ。明治五年の別名・牛馬解き放ち令こと「娼妓解放令」。それらが実在した証拠はいくらでも出てくるだろう。何人以上でないと大虐殺ではないとか、他国の奴隷とはこういうところが違うから奴隷じゃないとか、文学的修辞みたいな話をする人もいるかもしれないが、言葉遊びをしたところで実体は変わらない。
 単に、自分にとって気持ちいい事実だけを摘まんで語っているだけで、全体的に見ていないのだろう。30枚の下着を盗んだことがないという事実があるからといって、その男が下着泥棒ではないとは限らない。5枚の下着を盗んだという事実があるなら、その男は下着泥棒なのだ。一部の事実を元に他の事実を隠して結論を導きだすとするなら、その結論は事実とは言えない。

 百田氏は『日本国紀』に書かれていることが全て事実であると豪語している。その姿に何かを思い出さないであろうか? そう、『殉愛』刊行時の百田氏の姿である。『殉愛』について、内容は全て事実であると豪語していた百田氏。やしきたかじん未亡人の一方的な話を鵜呑みにし、たかじんの遺族やマネージャーを悪辣に描いた結果、裁判の課程で多くの虚偽が含まれていると認定されるに至っている。たかじん未亡人の虚偽の証言に騙されていた場合もあれば、未亡人を美化するため百田氏が事実をねじ曲げた場合もある。一番不可思議なのは、百田氏が記述していた、マネージャーが発言したとされる未亡人に向けられた悪質な発言に関するもので、その発言を聞いたと証言するものは誰もいないようだ。その発言を向けられたとされる未亡人すら知らないらしい。となると、あれは百田氏がウケを狙って創作したものなのであろうか? 謎だ。
 それはともかく『日本国紀』も、その内容が事実と呼ぶに値するか、さらなる検証を受けていくのも間違いないだろう。まあ、あの本を買う人は百田さんファンや安倍さんファン仲間として百田さんを応援している人なわけで、内容の如何ではなく、グッズとして購入しているわけであるから、どんなに検証されようが百田さんは困らないかもしれませんが。…腹は立てるだろうけど。

 随所に挿入されるコラムという名の薄いウンチクコーナー。知識の薄さ、曖昧さもそうですが、柔術についてのコラムの最後にテコンドーは琉球空手のパクりみたいな余計な話を唐突にしたがるのが百田さんだなって感じですな

 あと、鎌倉~室町期においては狂暴そのものだった日本人が現在のようになったのは徳川政権期の儒教教育のたまものなわけであり、日本人の精神に対する影響は大きいのですが、ほぼ儒教について触れておらず、そこも百田さんらしいですね。
 それを含めて、ディス・イズ・百田尚樹といった感のある百田氏の集大成みたいな作品であるのは間違いなく、今まで百田氏の作品を読んできた中で最も疲労感を残す作品であった。はやく、忘れたい。

(隔週金曜連載)

紹介した書籍:「日本国紀」百田尚樹(幻冬舎)https://books.rakuten.co.jp/rb/15675934/

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【ロマン優光:プロフィール】
ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。現在は、里咲りさに夢中とのこと。twitter:@punkuboizz

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http://books.rakuten.co.jp/rb/13292302/

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