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芸能・エンタメ 2016.06.09(木)

つまづきを長所に変えて~『ダンボ』のたどった苦難の道(前編):高橋ヨシキ連載2


(おことわり)旧作映画の映画表現に現代では一部不適切なものがあります。作品の時代背景やその意図を検証することが目的のため、文中の表現はそのままといたしました。何卒ご理解いただければ幸いです。(編集部)

あの映画に隠された、禁断の魅力とは? 現代の「神話」の深淵に迫る!

高橋ヨシキのディズニー大好き!
第2回 つまづきを長所に変えて~『ダンボ』のたどった苦難の道(前編)

「悪い子はサーカスに売っちゃうぞ!」
 言うことを聞かない子供に対して、かつて親はそう言って脅したものです。
 この脅し文句の正確な由来は不明ですが、おそらく19世紀末から20世紀にかけて、娯楽としてのサーカスが盛んになった時期に生まれたものだと思われます。「気をつけないと、ジプシーがお前を捕まえてサーカスに売っちゃうぞ!」という言い回しもあるそうなので起源はヨーロッパにあると見ていいでしょう。しかし、この文句はまたたく間に世界に広まり、もちろんアメリカでも定着しました。アメリカの場合、サーカスは各地を転々と巡回する見世物興行で、また、サーカスにはサイドショー(フリークショー)が付き物だったことから、「サーカスに売っちゃうぞ!」と脅す親には事欠きませんでした。つまり「サーカスに売っちゃうぞ」というと、アメリカの場合「どこか遠くの見知らぬ土地に連れ去られる恐怖」と「フリークとして見世物にされてしまう恐怖」の両方を子供に植え付ける言葉だったというわけです。この言葉は日本にも輸入されたので、年配の人の中には聞き覚えのある人がいるかもしれません。どのタイミングで日本にこの言葉が来たのかはわかりません。可能性としては、翻訳小説などから広まったのではないかと考えられますが、どうなのでしょう。
 先ほど「サーカスにはフリークショーが付き物だった」と書きましたが、これは『ダンボ』に登場するサーカスにおいても同様です。母親とたわむれていたダンボが、心ない子供たちに嘲笑される場面がありますが、このシーンの背景にサイドショーの看板がいくつか確認できるのです。細かく描きこんではありませんが、謎めいた美女と巨大魚のようなもの、それに怪力男の看板が見えます。謎めいた女性はサイドショーでは定番だったエキゾチックな占い師かもしれません。『ダンボ』のサーカスのモデルになったのは「リングリング・ブラザーズ&バーナム&ベイリー・サーカス」という、当時全米最大の規模を誇ったサーカスですが、このサーカスにもサイドショーはもちろん付いていて、ダンボの時代にも「ビルマからやってきたキリン首の女性」だとか「口唇に板を埋め込んだウバンギ族の土人」(どちらも当時のポスターの文言による)などが、「世界最大のゴリラ〈ガルガンチュア〉」と並んで華々しく宣伝されていました(お断りしておきますが、これはあくまでも当時のバーナム&ベイリー・サーカスが「見世物」として少数民族やゴリラを並列に扱っていたという事実に基づくもので、それが現代の目から見ると極めて差別的であるということは言うまでもありません)。ディズニーは実際にアニメーターやイラストレーターをこのサーカスに派遣、映画作りの参考用に多くのスケッチが描かれ、写真が撮影されました。『ダンボ』に出てくるサーカスの巨大なテント、パレードの様子、またサーカス列車などは、ほぼ忠実に当時の「バーナム&ベイリー・サーカス」を再現したものです。「バーナム&ベイリー・サーカス」は自ら「地上最大のショウ」と銘打って興行していましたが、この「地上最大のショウ」という言葉はのちに同題の映画『地上最大のショウ』(1952年)に使われることになりました。

・1940年代の「リングリング・ブラザーズ&バーナム&ベイリー・サーカス」の舞台裏の貴重なカラー写真。
http://www.theatlantic.com/entertainment/archive/2011/09/1940s-color-photos-of-the-ringling-brothers-barnum-and-bailey-circus/245365/

奇形とマイノリティが手を取り合う

 端的に言って『ダンボ』は奇形と差別にまつわる物語です。
 これは悪趣味を標榜したいがためにそう言っているのではなく、実際に『ダンボ』はそういうお話です。映画の中でも、意地悪なおばさんゾウが「こうなったのも全部、あのちびのF-R-E-A-Kのせいなんだから」と、わざわざ区切って「フリーク(奇形)」という言葉を強調しています。海外の研究では『ダンボ』と、やはりサイドショーのフリークたちを描いたトッド・ブラウニング監督の異色作『フリークス(怪物團)』を関連づけて論じているものもあります。
『ダンボ』冒頭に、嵐の晩、サーカス団がテントを設営する場面があります。
 このとき、働いている屈強な人夫たちは黒人です。でも、ここに人種差別を嗅ぎとるのは行き過ぎだとぼくは思っています。というか、公民権運動以前のこの時代、実際に黒人たちは多く肉体労働に従事していました(させられていた、と言ってもいいです)。なので、この場面は「時代精神としての人種差別」を反映しているかもしれませんが、ことさら有色人種を貶める意図があるとは考えられません。
 逆に、後半で登場するカラスたちは、その口調、態度、服装、それに歌う曲も含め、明らかに黒人をカリカチュアライズしたものですが、最初こそ軽口を叩いてはいたものの、最終的に彼らはダンボの味方をするのですから、ここにも差別を読み取ることは困難です。いや、そうではない、その「カリカチュアライズ」そのものが問題なのだ、とする指摘があることも承知していますが、孤立無援のダンボを応援してくれる者がみな小さく、一般に嫌われる存在(ネズミ、カラス)であることを考えると、「奇形というマイノリティを助けてくれるのは、種類は違ってもやはりマイノリティーの人々である」なぜなら、彼らはマイノリティの痛みが分かるから、というふうに解釈するのが妥当ではないかと思えるのです。
 先を急ぎすぎてしまいました。
 テントを設営する前、サーカス列車にコウノトリが動物の赤ちゃんを運んできます。
 年老いたメスのゾウのジャンボにも、少し時間はかかってしまいましたが、待ちわびた赤ちゃんが届けられました。
 ダンボの母親ジャンボにはモデルがいます。19世紀にスーダンで捕獲されたオスのアフリカゾウ「ジャンボ」がそれです。実在のジャンボはパリとロンドンの動物園を経たのち、くだんの「バーナム&ベイリー・サーカス」に売却され、アメリカへとやってきました。「ジャンボジェット」など、「巨大な」という意味で「ジャンボ」という言葉を使うのはこのゾウの名前が由来です。
 コウノトリは赤ちゃんを届けた控えに、ジャンボのサインを求めます。ジャンボは鼻でペンを持つと、器用に「×印」をつけますが、これは文盲の人がサインをするやり方です。ジャンボはゾウなので文盲なのは当たり前ですが、配達人のコウノトリは文字がわかるようですから、これはダンボが産まれた環境が裕福でも白人でもないことを示しているとみることもできます(実際はサーカスですが)。1940年、『ダンボ』公開の1年前、アメリカの文盲率は白人では2%でしたが、有色人種では11.5%もありました。
 ジャンボはそれなりに年寄りに見えますが、極端な老婆という感じはしませんから、ここで「年寄りが出産するといえば、旧約聖書に登場するサラ(90歳で息子イサクを産んだと言われる)の引用ではないか?」と勘ぐるのはやめておきましょう。また、子供を授かったほかの動物たちはみな「つがい」なのに反してジャンボは独り身なのですが、これも「さてはキリストのメタファーが」などと勘ぐる必要はないかと思います。全体として見た場合、そういう宗教的な寓意を『ダンボ』に見出すことは不可能でしょう。また『ダンボ』は『みにくいアヒルの子』のアップデート版ではないか、という指摘はつとになされてきたことですが、これも実は的を射ていないのではないか、とぼくは思っています。『みにくいあひるの子』は一種の「貴種流離譚」ですが、『ダンボ』は後述するように、フリークがフリークのままで自らの尊厳を取り戻す話だからです。

「うすのろ太郎」でも大空をかけることができる

 母ゾウのジャンボが白い袋を解くと、中には可愛らしい赤ちゃんゾウがちんまりと座っていました。
 ジャンボはこの輝くばかりの息子を「ジャンボ・ジュニア」と命名します。
 映画『ダンボ』における幼いダンボのアニメーションの素晴らしさには、本当に筆舌に尽くしがたいものがあります。どの場面、どの表情、どの動きを見てもほれぼれします。それにも実は理由があります。『ダンボ』を作るにあたって監督のベン・シャープスティーン(ほかに『シンデレラ』『ふしぎの国のアリス』『ファンタジア』『ピノキオ』など)は予算を抑え、シンプルな映画にすることを命じていました。『ダンボ』の製作時、ヨーロッパでは第二次大戦が始まっており、その影響で『ピノキオ』と『ファンタジア』が思ったような興行収入を得られなかったからです。そこで『ダンボ』はなるべく予算をかけずに作られることになったのですが、その結果、キャラクター・アニメーションもディティールを描きこまず、線の数を減らすことが求められました。しかしビル・ティトラ(ダンボ担当作画監督)をはじめとするアニメーターたちは、ディティールを省いたぶん、キャラクターの動きや表情に労力を注ぎこんだので、驚くべきキュートさが生まれることになったのです。
「ジャンボ・ジュニア」がくしゃみをすると、それまで隠れて見えなかった巨大な耳が露わになりました。これを見て、意地悪なおばさんゾウたちは嫌悪の叫びをあげます。さっきまでは「可愛い可愛い」と言っていたのに、手のひらを返したように「どういうことかしら?」「おかしいんじゃないの?」などと陰口を叩きはじめ、しまいには「あれは〈リトル・ジャンボ〉なんていうより〈ダンボ〉って名前にした方がいいわね」と言い放ちます。
「Dumbo ダンボ」は、英語の「Dumb」にジャンボの語尾「o」をつけた、悪意に満ちたあだ名です。「Dumb」は「うすのろな」「バカな」という意味ですから、日本語に訳すと「ダンボ」は「うすのろ太郎」「バカ夫」といった感じでしょうか。生まれたばかりの赤ちゃんを「うすのろ太郎」呼ばわりするとは、何というひどい連中でしょうか。書いていて涙が出てきました。くそっ、あのばばあのゾウだけは絶対に許せない。
 しかしお母さんのジャンボは優しくダンボを鼻で抱きかかえます。赤ちゃんは皆そうですが、お母さんだけが赤ちゃんの全世界であり、残酷な世間から守ってくれる障壁でもあるわけです。「母親」の普遍的な愛情は、のちにジャンボが牢屋のような貨車に閉じ込められてしまったときに、名曲「Baby Mine 私のベイビー」に乗せて、余すところなく描かれています。いろんな動物たちが、それぞれ自分の赤ちゃんをあやしているという素晴らしい場面です。
 ダンボは大きな耳のせいで、駆け足になるとよくつまづいて転んでしまいます。耳を踏んでしまうからですが、これは実に見事なメタファーだと思います。「自分の短所(あるいは奇形、もしくは人より劣っているとされる部分)が、まさに自分をつまづかせる原因となっている」ことを、絵ではっきりと示してくれるからです。
 そして、このことと、最終的にダンボがその耳を使って大空を駆けることができるようになることが、まっすぐにつながっていることが『ダンボ』を不朽の名作にしています。つまり『ダンボ』は「奇形を克服する」お話ではないということです。『ダンボ』は自らの奇形・短所を、飛翔するための(文字通り)翼へと変えてしまう。細かい差異をとりあげて「奇形だ」「変人だ」「我々とは違う」などと言い募る世間に迎合して「ノーマル」になる必要などない、と『ダンボ』は高らかに謳いあげます。なぜなら、その「細かい差異」こそが、自分を自分にし、ひいてはさらなる高みへと引き上げてくれる長所にほかならないからです。フリークで上等、奇形でいいじゃないか、という考えが『ダンボ』には背景としてあります。
 このメッセージは本当に力強く、誰にも勇気を与えてくれるものだと思います。

<次週につづく>

後編はこちらから。
http://bucchinews.com/geinou/5788.html

イメージ写真:Elephant act at the Circus Atayde at the Feria de Hidalgo in Pachuca, Hidalgo, Mexico/AlejandroLinaresGarcia(Wikipedia CC BY-SA4.0)

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